魔法使い時々王子

翌日から、王宮は急に慌ただしくなった。
廊下を行き交う侍女たちは手にリストを持ち、料理係はキッチンで声を張り上げ、庭師たちは普段よりも丁寧に花の手入れをしていた。

アリスの部屋では、朝から三着目のドレスの試着が行われていた。

「……もう、このドレスは重すぎるわ。歩くのも一苦労よ!」

アリスがうんざりした声を漏らすと、リアンが苦笑しながら背中のリボンを締める。

「でも、第一王子アルフィ殿下が相手ですからね。王宮の威厳ってやつです」

「だったら兄上に戻ってきてもらえばよかったのに……」

「アリス様、文句を言っても誰も代わってくれませんよ?」

「……うぅ、分かってるわよ……」

 一方その頃――

魔法大臣ロザリアの執務室では、シドがため息を三回ついたところだった。

「立ち方、座り方、飲み方、笑い方まで……何で俺、こんな訓練受けてるんだ……?」

「それが“随行”というものよ」

ロザリアは笑みを浮かべながら紅茶を口にした。隣には、補佐役として魔法礼儀作法の特訓係に任命されたジェームズが待機している。

「彼よりマナーに詳しい人はいませんよ。ではジェームズ、よろしく頼んだわ。」

ジェームズはロザリアに深く頭を下げた。

「シド殿、ではワイングラスの持ち方から。」

「……はぁ、全くなんでこんな事に。。」

シドは深く溜息を付くと言われた通りグラスに手を伸ばした。