魔法使い時々王子

カクテルタイムの後の夕食会、アリスは具合が悪いとして欠席した。

国王が一瞬怪訝な顔をするも、ジェーンの素早いフォローで切り抜けた。

しかしそのやり取りを見ていたロザリアは中庭に出て先程アリスとシドが隠れていた茂みの近くに立った。

「…ロザリア様?こんなところで何を…」

エドが不思議そうに問いかけた。

「……魔力の残滓が、まるで二つの存在が重なったような痕跡を……。また面白い魔法を使ったものね。」

ロザリアはふふっと笑うと部屋の中に戻っていった。

***

翌日、アリスは体調が戻らないとして王宮へ戻る事になった。


帰る前に、アリスは昨夜ジェーンの計らいで使用人部屋に泊まったシドの元を訪れた。


「…本っっ当にありがとう!!迷惑かけてごめんなさい。」


アリスはシドに頭を下げて誤った。


「…全くだ。」


「…ねぇ、昨日も思ったんだけどすっかり敬語じゃなくなってるわね。」


アリスの言葉にシドは悪びれる様子もなく肩をすくめた。


「2日も連れまわされたんだ。もういいかなって。」


「ふふっ。冗談よ。その話し方の方がいいわ。なんだかその方が、ずっと“本当の私”でいられる気がするわ。二人きりのときは、そのままでいて。」


風が吹き抜ける。ほんの少し、沈黙が落ちた。

シドは軽くため息をつきながら、ぽつりと漏らす。

「やれやれ、やっぱりお姫様は手がかかる」

「ええ、これからもお願い事をするかも。私、もっと外の世界が知りたいの」

そう言って、アリスはいたずらっぽく笑った。

彼女の中にある“王女”と“ひとりの少女”の境界が、少しだけ溶けた夜だった。

そして、シドはこのわがままな王女といると、何故か昔の自分を思い出してしまう。


「…なに?」

じっと見つめてくるシドにアリスは少し頬を赤らめた。

「いや、何でもない。」

ー俺たちは似てる。そうシドは心の中で呟いた。


こうして、騒がしくも大切な夏の日々は、ひとまずの幕を下ろす。
けれど、それはふたりにとって新たな始まりの合図でもあった。