魔法使い時々王子

その日の午後、アリスはセオの部屋を訪れていた。

窓から差し込む柔らかな光の中、セオは車椅子に座り、静かにアリスを迎え入れた。

「何か不自由はありませんか」

穏やかな声だった。
それだけで、胸に張りついていた緊張が、ほんの少し和らぐ。

アリスは一度唇を結び、少しの沈黙のあと、恐る恐る口を開いた。

「……リトから聞いたのです。セオには、もともと婚約者がいらしたこと。そして……私の父が、そのことを承知の上で、この婚姻を強く進めたことを……」

言葉を紡ぐたび、胸が締めつけられる。
責めたいわけではない。ただ、確かめずにはいられなかった。

セオはすぐには答えなかった。
静かに車椅子を動かし、窓辺へと移動する。

外を見つめたまま、少し間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。

「確かに、私には婚約者がいました。ですが、この婚姻を決めたのは、あなたの父上だけではありません。我が国も……間違いなく、この話に同意しました。ですから、あなたが気に病むことは何一つないのです」

穏やかで、揺るぎのない声だった。
その言葉に、アリスの胸に溜まっていた重たいものが、ほんの少し溶けていく。

「……ニーナは、大丈夫かしら」

不安を滲ませたアリスの問いに、セオは微笑んだ。

「ニーナとは、きちんと話し合いました。彼女は強い人です。……大丈夫ですよ」

アリスはゆっくりと頷いた。

こんなにも優しい人たちに、これ以上悲しい思いをさせたくない。
アリスは心の底から、そう強く思った。