魔法使い時々王子

「どうして、私の名前を?」

アリスが思わず一歩近づくと、少年は視線だけをこちらに向ける。

「セオの婚約者だろ」

あまりにもあっさりした口調だった。

「……そ、そうだけど。。」

アリスの言葉にリトは曖昧に笑った。その笑みは年相応の無邪気さとはどこか違って見える。

「君がここに来ると思ってた」

「え……?」

「この図書館に赤い丸、ついてなかっただろ」

アリスははっとして、昼間見ていた地図を思い出した。
行った場所にだけ印をつけていた、あの赤い丸。

「どうして、それを……」

問いかけようとした瞬間、図書館の奥で風もないのに書架が小さく鳴った。

アリスが思わず振り向くと、リトはすでに立ち上がっていた。

「また来るといい」

そう言って、彼は書架の影へと歩いていく。

「待って、」

呼び止めた時には、そこにはもう誰の姿もなかった。

広い図書館に残ったのは、規則正しく刻まれる時計の音だけ。

——図書館の幽霊。

その言葉が、ふとアリスの胸に浮かび、消えなかった。