魔法使い時々王子

その日の夜、夕食を終えると、アリスは再びアウルム図書館へ向かった。
どうしても、あの少年のことが頭から離れなかったのだ。

重厚な扉を押し開けると、昼とは違い、やわらかな電球の光が館内を包んでいた。
本棚の影が長く伸び、静けさの中に微かな温もりがある。

アリスは迷わず、昼間あの少年がいた奥の椅子へと足を運んだ。

――やっぱり、いる。

昼と同じ場所、同じ姿勢で、分厚い本を読んでいる。
まるで時間が止まっていたかのようだった。

アリスは思わず息をのみ、ぎゅっと両手を握りしめた。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。

ゆっくりと近づくと、少年は気配を察したのか、静かに本を閉じた。

「珍しいな。ここに人が来るなんて」

その口調は、年齢に似合わず落ち着いていて、どこか大人びている。

――やっぱり、この子……

近くで見て、アリスは確信した。
この少年は、普通ではない。

「あなた、名前は?」

問いかけると、少年は少しだけ視線を落とし、再び本を開いた。

「リト」

短く、それだけ告げる。

「リト……私はアリスよ」

そう名乗ると、少年はページをめくる手を止めずに答えた。

「知ってるよ」

その言葉に、アリスの背中をひやりとしたものが走った。