魔法使い時々王子

アリスは部屋に戻ると、机に向かい、羽ペンを取ってシド宛ての手紙を書き始めた。

セオには、もともと婚約者がいたこと。
二人は確かに愛し合っていたのに、政の都合で引き裂かれたこと。
――それは、私とシドと同じだと。

そこまで書いたところで、アリスの手が止まった。

「……」

胸の奥がきゅっと痛んで、アリスは思わず手紙をくしゃりと握り潰した。

こんなことをシドに伝えて、どうするの。
ただ心配させるだけで、何の意味もない。

こちらは何も問題なく過ごしていると、
そう伝えるだけでいいはずなのに。

そう思っても、再び羽ペンを持つことはできなかった。

しばらく机の前で動けずにいると、控えめなノックの音がした。

「アリス様」

扉を開けて入ってきたのは、専属のメイドであるハンナだった。

「今夜、セオ様のお姉様が夕食会を開かれるそうで……
 ぜひご参加いただきたいと仰っています」

アリスは顔を上げた。

「……セオの、お姉様?」

「はい。王女殿下が、ぜひアリス様とお話がしたいと」

思いがけない誘いに、アリスは一瞬戸惑ったが、すぐに小さく頷いた。

「……分かったわ。準備するわね」

ハンナはほっとしたように笑い、軽く一礼して部屋を後にした。

扉が閉まると、アリスはもう一度、机の上のくしゃくしゃになった手紙に目を落とした。

(……今は、前を向かなくちゃ)

そう自分に言い聞かせるように、アリスは深く息を吸った。