魔法使い時々王子

アリスは震える指先で紙を開き、丁寧に並んだ文字をひとつひとつ追った。

**アリスへ
まずは無事に着いたようでなにより。
手紙はこれからこの紙鳥で送ることにするよ。だけどいつもの倍以上の距離を飛ばしているから、ちゃんと届くか心配だ。
ミロ王国はどうだ? 大変なこともあるだろうけど、心穏やかに過ごせることを祈っている。

追伸
アリスからの手紙は同封の羊皮紙に書いて二つ折りにし、窓辺に置くと俺の元に届くように魔法をかけてある。**

文字は短く、事務的にも見えるのに──
読めば読むほど、その向こうにいるシドの息遣いが聞こえてくるようだった。

「……シド」

小さく名前を呼ぶと、胸の奥がじんわり熱くなった。

遠い国に来て、誰も味方がいないと思っていた。
けれど、たった一通の手紙があるだけで、こんなにも心が軽くなる。

アリスはそっと手紙を胸に抱き寄せた。
遠く離れていても、こうして繋がっていられる——その事実が胸の奥をじんわり温めた。

窓の外では、紙鳥の魔法が残したわずかなきらめきが、夕暮れの光に溶けていく。
ミロ王国の空気はまだ少しだけよそよそしい。それでも、この小さな温もりがあれば、明日もきっと歩いていける。

アリスは胸元の手紙にそっと指を沿わせた。

「……シド、ありがとう。」

そう呟くと、静かに机へ向かい、同封の羊皮紙を広げた。
いま届けられた想いに、同じだけの想いで返したくて——。

ペン先が紙に触れる。
新しい土地で始まる新しい日々。その始まりを噛みしめながら、アリスはゆっくりと手紙を書き始めた。

こうして、ミロ王国でのアリスの物語が静かに幕を開けた。