魔法使い時々王子

部屋に戻ると、アリスはそっと扉にもたれかかった。
胸の奥に溜まっていた緊張が一気にほどけ、長く深いため息がこぼれる。

その様子を見ていたルーナが、無言で紅茶を淹れはじめた。
湯気の立つカップから、ほのかに花の香りが広がる。

「アリス様、明日ガーデンパーティーが開かれます。よろしければご参加ください。」

アリスはカップを手に取りながら小さく頷いた。

「……ええ、分かったわ。」

ルーナは静かに頭を下げ、部屋を出て行った。

残された部屋は急に広く、そして心細く感じられる。
アリスは机へと歩き、小さなランプを灯す。
引き出しから羊皮紙と羽ペンを取り出すと、深呼吸しながら文字を綴り始めた。

――ミロ王国に無事着いたこと。
――セオと対面したこと。
――思っていたより優しく、しかしどこか「距離のある」人だったこと。
――そして、どうしてもシドの顔が浮かんでしまうこと。

ペン先が少し震え、インクがにじむ。

(こんなことで、私……大丈夫なのかしら)

けれど書かずにはいられなかった。
遠い国にいる、あの人にだけは伝えておきたかった。

アリスはそっと手紙を折りたたみ、封をした。

シドがどのようにして手紙を送ってくるのかまだ分からない。


アリスは静かに目を閉じた。

――大地の祝日まで、あとわずか。

胸の奥で、不安と期待がゆっくりと揺れていた。