朝靄がまだ薄く立ちこめる王宮の中庭に、白銀の装飾が施された豪奢な馬車が停まっていた。
ミロ王国へと向かうための、アリスの新しい人生のはじまりを告げる馬車。
その前にはすでに多くの王宮関係者が整列し、静かなざわめきが広がっていた。
昨日までと同じ王宮なのに、どこか違って見える。
今日この瞬間から――アリス王女はもう「ここに住む人」ではなくなるのだ。
最近、顔を合わせる時間の取れなかった両親──国王と王妃も、揃って立っていた。
しかしアリスの胸は温かくならない。
これが“形式だけの別れ”なのだと、彼女自身が一番分かっているから。
アリスは静かに、儀礼の微笑みを浮かべて言った。
「いってまいります、父上、母上。」
王妃はこわばった表情で小さく頷き、
国王は短く「うむ」と返すだけだった。
アリスは深く礼をすると、視線を上げることなく馬車へ歩いた。
淡いドレスの裾が、冷たい朝の風に揺れる。
その少し後方。
シドはロザリアの横に控え、無言でアリスの背を見つめていた。
顔には出さない。けれど胸の奥がずきりと痛んだ。
ロザリアは横目でシドを見たが、彼に声をかけることはしなかった。
彼女は全て察している。それでも、踏み込むことはしない。
アリスが馬車に乗り込む直前、一瞬だけ振り返った。
その瞳はいつも通りに見えたが、よく見れば、涙を必死に堪えるように光が揺れていた。
シドは微かに頷くことで応えた。
アリスはそっと微笑むと、馬車へ足を踏み入れた。
重く、静かに──馬車の扉が閉まった。
ミロ王国へと向かうための、アリスの新しい人生のはじまりを告げる馬車。
その前にはすでに多くの王宮関係者が整列し、静かなざわめきが広がっていた。
昨日までと同じ王宮なのに、どこか違って見える。
今日この瞬間から――アリス王女はもう「ここに住む人」ではなくなるのだ。
最近、顔を合わせる時間の取れなかった両親──国王と王妃も、揃って立っていた。
しかしアリスの胸は温かくならない。
これが“形式だけの別れ”なのだと、彼女自身が一番分かっているから。
アリスは静かに、儀礼の微笑みを浮かべて言った。
「いってまいります、父上、母上。」
王妃はこわばった表情で小さく頷き、
国王は短く「うむ」と返すだけだった。
アリスは深く礼をすると、視線を上げることなく馬車へ歩いた。
淡いドレスの裾が、冷たい朝の風に揺れる。
その少し後方。
シドはロザリアの横に控え、無言でアリスの背を見つめていた。
顔には出さない。けれど胸の奥がずきりと痛んだ。
ロザリアは横目でシドを見たが、彼に声をかけることはしなかった。
彼女は全て察している。それでも、踏み込むことはしない。
アリスが馬車に乗り込む直前、一瞬だけ振り返った。
その瞳はいつも通りに見えたが、よく見れば、涙を必死に堪えるように光が揺れていた。
シドは微かに頷くことで応えた。
アリスはそっと微笑むと、馬車へ足を踏み入れた。
重く、静かに──馬車の扉が閉まった。



