シドの言葉が途切れると、
バルコニーには風の音すら聞こえない静けさが落ちた。

アリスは驚いたように目を見開いたまま、
しばらく言葉を失っていた。
だが、その瞳の奥に宿る光は、揺らぎよりも喜びの色が強かった。

「……嬉しいわ、シド。」

ふっと息を吸い、胸元に手を添える。
まるであふれ出そうな気持ちを押さえ込むように。

「私も……あなたが好きよ。」

シドの呼吸が止まる。
アリスは少し恥ずかしげに微笑んだ。
その笑顔は、これまでシドが見たどんな表情よりも柔らかかった。

「最初に気づいたのは……あの日。あなたが私を城から連れ出して、初めて町へ連れていってくれた時。」

アリスの声は、夜の風に溶けるように静かだった。

「窮屈な世界しか知らなかった私に、外の光を見せてくれた。あの時からずっと……あなたに心を救われてばかりだったの。」

シドの胸の奥が熱く揺れた。

アリスはそっと一歩近づいて、
手を伸ばしシドの頬に触れた。

「あなたが好きよ、シド。たとえこの先、道が別れても。この気持ちは本物。」

その言葉が、シドの心の最後の壁を静かに崩した。

シドはアリスの手を包み込み、ゆっくりと引き寄せる。
アリスは抵抗せず、自然にシドの胸元へ身を寄せた。
まるで最初から、そこが自分の居場所だったかのように。

胸の鼓動が触れ合う。
互いの温度が重なる。

そして——

シドはアリスの額へそっとキスを落とす。
アリスはまぶたを閉じ、安心したように微笑んだ。

次の瞬間、
アリスが顔を上げた。

視線が絡む。
もう逃げる理由も、隠す言い訳もなかった。

シドはアリスの頬に手を添え、
ゆっくりと唇を重ねた。

優しく、震えるほど大切に触れた初めてのキス。
世界から音が消えたように静かで、
ただ二人の気持ちだけが確かに重なっていた。

離れたとき、
アリスは涙をこぼしながら笑っていた。

「……やっと言えたね、シド。」

シドはその涙を指でそっと拭った。

「……ああ。ずっと、こうしていたかった。」

月だけが見守るバルコニーで、
二人は抱きしめ合い、
失われるはずだった想いが初めてひとつになった——。