「…では、この家に良い風が吹くように。」
シドは腰に下げていた小さい袋から灰を取り出して家に向かって播いた。
「これでよし。」
「ありがとう、シド。姪っ子の家が建ったらおめぇにまじないして貰おうってずっと話してたんだ。」
依頼してきたのは近所に住んでいるマーカスさんだ。
シドは少し眉間に皺を寄せて頭をくしゃっとかき上げた。
「…姪っ子さんの家が建ったのはおめでとう。だけど、俺の本業は退治屋だぜ?」
「おめぇのまじないが効くってここらじゃもう有名だ。観念してまじない師としてやっていきな。だいいち退治屋なんてもう流行らないぜ?」
マーカスさんの言葉にシドはがっくし肩を落とした。
彼のいう通りここ一月でまじないの依頼は毎日のようにあるのに、退治屋の依頼はひとつとない。
「…魔物退治は基本的に王宮が対応してくれるからなぁ。それに新しい魔法大臣様のお陰で王都に魔物は侵入出来ない。せいぜい郊外の作物が荒らさせる程度さ。」
「…魔法大臣が変わって俺の商売あがったりだぜ…」
ぶつくさと文句を言うシドに、マーカスは依頼料を差し出した。
シドは受け取ると、大きな溜息を付きながら家に戻った。



