ダリウスはアリスに向き直ると、少し柔らかな微笑みを浮かべた。

「アスタリトは……平和で、大きな国だ。今どうなっているかは分からないけれど、もし何か変わったことがあれば――手紙で知らせる。」

その言葉に、アリスは胸の奥がきゅっと締めつけられたが、同時に安心もした。
彼女はそっと微笑んで頷いた。

「ええ……お願い。」

ダリウスは「任せて」と軽く言うと、立ち上がり、旅支度を整えた身でドアへ向かった。
外に出ると、待たせていた馬に軽やかに跨る。

「じゃあ、行くよ。アリスも、元気で。」

振り返って手を上げるダリウスに、アリスも小さく手を振り返した。
胸にまだシドのことを話した余韻が残っている。

ダリウスの馬が駆け出し、王宮の門を過ぎて森の道へと消えていく。

その様子を、ひとり王宮の窓辺から眺めている影があった。
シドだ。

馬の足音が遠ざかるにつれ、シドは胸の奥がざわつくのを感じた。
――大切な国へ向かう者を見送る複雑さか、それとも自分の名が、どこかで語られたような胸騒ぎか。

シドはただ静かに窓を閉じた。