その日の夜。
夕食を終えたアリスとダリウスは、アリスの部屋でくつろいでいた。
柔らかい灯りが揺れる小さなランプ、窓際には温室から持ち帰った花が飾られ、温かく静かな空間が広がっている。
ソファに座るアリスは、ひとつ息をついて言った。
「……もう、本当に。あなたの名前を聞かない日がないのよ」
ダリウスはクッションに肘を乗せて、気の抜けたような笑みを浮かべた。
「そうか? 別に気になるほどのことでもないだろう」
まるで“蝉の声と同じくらい気にしていない”という顔だ。
アリスは呆れつつも、どこか慣れている様子だった。
ダリウスはふと体を起こし、さらりと話題を変えた。
「それより――今日は魔法使いのシドと話したよ」
シドの名が出た瞬間、アリスの動きがごく僅かに止まった。
紅茶を置く仕草がぎこちなくなり、視線はアルコーブの花の方へ逸れる。
ダリウスはその反応を見て、ほんの少し声を潜め、微笑を漏らした。
「……魔法使いに惚れてるんだな」
「っ……!」
アリスは顔を赤くし、慌てて紅茶をくいっと飲んだ。
熱くもないのに、まるで湯気が立つかのように頬が染まる。
ダリウスはわざとらしく肩をすくめる。
「まぁ分かるぞ。あんな色男、旅のどこにもいなかった。
それに――シドの名前だって、王宮内でしょっちゅう聞くからな」
アリスは唇を尖らせ、恥ずかしさを紛らわすように言い返した。
「わ、私は別に容姿で好きになったんじゃ……」
そこまで言ってしまい、はっと口をつぐむ。
ダリウスがにやりと口元を上げた。
「やっぱ好きなんだな」
「……あっ」
アリスは完全に“やってしまった”顔になった。
耳まで真っ赤になり、クッションに顔を埋めたい気持ちを必死に堪えている。
ダリウスはそんな従妹を見て、穏やかに笑った。
からかい半分、でもその奥には、彼女の幸せを願うような温かさがあった。
夕食を終えたアリスとダリウスは、アリスの部屋でくつろいでいた。
柔らかい灯りが揺れる小さなランプ、窓際には温室から持ち帰った花が飾られ、温かく静かな空間が広がっている。
ソファに座るアリスは、ひとつ息をついて言った。
「……もう、本当に。あなたの名前を聞かない日がないのよ」
ダリウスはクッションに肘を乗せて、気の抜けたような笑みを浮かべた。
「そうか? 別に気になるほどのことでもないだろう」
まるで“蝉の声と同じくらい気にしていない”という顔だ。
アリスは呆れつつも、どこか慣れている様子だった。
ダリウスはふと体を起こし、さらりと話題を変えた。
「それより――今日は魔法使いのシドと話したよ」
シドの名が出た瞬間、アリスの動きがごく僅かに止まった。
紅茶を置く仕草がぎこちなくなり、視線はアルコーブの花の方へ逸れる。
ダリウスはその反応を見て、ほんの少し声を潜め、微笑を漏らした。
「……魔法使いに惚れてるんだな」
「っ……!」
アリスは顔を赤くし、慌てて紅茶をくいっと飲んだ。
熱くもないのに、まるで湯気が立つかのように頬が染まる。
ダリウスはわざとらしく肩をすくめる。
「まぁ分かるぞ。あんな色男、旅のどこにもいなかった。
それに――シドの名前だって、王宮内でしょっちゅう聞くからな」
アリスは唇を尖らせ、恥ずかしさを紛らわすように言い返した。
「わ、私は別に容姿で好きになったんじゃ……」
そこまで言ってしまい、はっと口をつぐむ。
ダリウスがにやりと口元を上げた。
「やっぱ好きなんだな」
「……あっ」
アリスは完全に“やってしまった”顔になった。
耳まで真っ赤になり、クッションに顔を埋めたい気持ちを必死に堪えている。
ダリウスはそんな従妹を見て、穏やかに笑った。
からかい半分、でもその奥には、彼女の幸せを願うような温かさがあった。



