魔法使い時々王子

刃がぶつかるたびに、空気が震えた。
金属音が鋭く響き、訓練場の砂が二人の足元で舞い上がる。

ダリウスの剣筋はしなやかで、無駄がない。
相手の力を受け流し、反撃の隙を正確に突く。
一方、シドの剣は静かで、研ぎ澄まされていた。
無駄な力を一切使わず、最小限の動きで相手の攻撃をいなす。

――強い。
ダリウスは内心、驚嘆していた。
この国でここまでの腕を持つ者はそう多くない。

何度か打ち合い、互いに一歩も譲らず、
やがて二人の呼吸が荒くなり始めた頃――
ダリウスが一歩引き、剣を下ろした。

「……ここまでにしようか。続けたら、どちらが倒れてもおかしくない」

シドも息を整えながら、静かに頷いた。
「お見事でした。まさかここまでとは」

ダリウスは微笑み、柄を軽く打って礼を示す。
「君こそ。噂に違わぬ腕だ」

しばらくの沈黙。
風が二人の髪を揺らし、砂がまた静かに落ち着いたころ、
ダリウスがふと視線を上げた。

「……実は、君の剣を見るのは今日が初めてではない」

シドの表情がわずかに動く。
 「……と、言いますと?」

ダリウスは剣を鞘に収めながら、遠い目をした。
「何年か前、旅の途中で立ち寄った国があってね――アスタリト王国だ」