扉の向こうから、軽やかな足音が近づいてくる。
次の瞬間、勢いよく扉が開いた。

「やあ、アリス!」
朗らかな声とともに、旅塵をまとった青年が姿を現した。
金砂のような髪が光を受けて揺れる。
その笑顔は、まるで遠い国の陽光をそのまま連れてきたかのようだった。

「ダリウス……!」
アリスは思わず立ち上がった。
彼は少しだけ身を屈め、軽く腕を広げる。
「久しぶりだね。ずいぶん顔を見てなかった気がする」

「あなたこそ! 突然すぎて心臓が止まるかと思ったわ」
アリスは小さく笑いながらも、頬が自然と緩むのを止められない。

「旅の予定なんて風任せさ。報せる暇もなくてね」
そう言ってダリウスは軽く肩をすくめた。
いつもの調子だ。
それでも、彼が王宮に戻るたび、部屋の空気が一瞬で明るくなる。

「またいろんな国を回ってきたの?」
「もちろん。今回は砂の国へ行ってきた。市場で君に似合いそうなものを見つけたんだ」
ダリウスは懐から小さな布包みを取り出し、アリスの掌に乗せた。
薄い青の宝石が朝の光を受け、淡く輝く。

「……綺麗」
アリスの声がほんの少し震えた。
「ありがとう。帰ってきてくれて、うれしいわ」

ダリウスはふと真顔になり、アリスの頭に手を置いた。
「しばらくはここにいるよ。君が退屈しないようにね」
軽口のようでいて、その言葉には確かな優しさがあった。