シドの言葉が途切れ、しばらくの沈黙が流れた。
雨の音だけが、ガラスの向こうで細く続いている。

アリスはそっと立ち上がり、温室の扉の方へ歩いた。
「……雨、やんだみたい」

彼女が外を見上げると、灰色だった空の向こうに、うっすらと虹が架かっていた。
淡い光が差し込み、濡れた花びらがきらめく。

「虹なんて、久しぶりに見たな」
シドがアリスの隣に立つ。
その横顔には、いつもより穏やかな表情があった。

アリスもつられて微笑んだ。
胸の奥に、言葉にならないあたたかさが広がっていく。

「……きれいね」

「うん」

短い返事が、静かな空気に溶けていった。
温室の中には、雨上がりの光と、ふたりの柔らかな気配だけが残っていた。