「ノクターンはどう?」
アリスは、咲きかけの花のつぼみを指でそっとなぞりながら言った。
「私は詳しく知らないけれど、王宮では人気があるようね。皆、憧れるって」

「うん、強い人ばかりだよ」
シドは手を止め、少し考えるように視線を落とした。
「特にルシアンはすごい。剣の腕もそうだけど、冷静で、仲間をよく見てる。あの人がいるだけで場の空気が締まるんだ」

アリスは興味深そうに微笑んだ。
「あなたも、そういう人のように見えるわ。落ち着いていて、強くて」

シドは苦笑した。
「俺が? まさか。ノクターンに入るなんて、おこがましいよ。あの人たちは、“選ばれた人間”だ」

「でも、あなたも選ばれたじゃない」
アリスの声は穏やかだったが、その瞳にはどこか切なさがあった。
「ロザリア様に見込まれて、補佐官になった。
それは偶然じゃないと思う」

少しの沈黙。
温室のガラスを打つ雨の音が、静かに響く。

「……選ばれた、か」
シドは低く呟いた。
「俺はただ、“ここにいられる理由”が欲しかっただけなんだ」

アリスはその言葉に、ふと胸の奥がきゅっと痛んだ。
彼の“強さ”の中に、そんな孤独があるとは思っていなかった。