魔物退治を終え、シドは温室の扉を静かに押し開いた。
中にはアリスが一人、緑に囲まれた小道のそばに立っていた。外はシトシト雨が降り、温室の蒸気に淡く光が反射している。

「お疲れさま、シド」
アリスは穏やかに声をかけた。けれど、目の奥には心配が潜んでいた。怪我はないだろうか、疲れすぎてはいないだろうか――それを言葉にする勇気は、まだ出せなかった。

「セラがね、水路の点検をしてくれたわ」

「そうか、」
アリスは少し微笑みながら報告する。シドは小さく頷き、肩の力を抜いた。

しばらくの沈黙の後、アリスは静かに問う。
「……どうして、ここに来る前は退治屋をしていたの?」

シドは目を細め、少し考える素振りを見せた。
「自分の、この魔法を活かせると思ったんだ。あの頃いた場所では……魔法は何の役にも立たなかった」

その言葉に、アリスの胸はざわついた。
彼が何を背負って生きてきたのか、その一端を垣間見た気がした。
「……そう」
アリスは小さく息を吐き、彼にもっと尋ねたい気持ちを押し殺した。

本当は、シドが元王族であることを打ち明けてほしいと思った。
けれど、シドはそれ以上何も語らず、静かに微笑むだけだった。

アリスはただ、彼の横顔を見つめる。
言葉には出さずとも、心の奥で、いつか彼の本当の話を聞きたいと強く願った。