魔法使い時々王子

シドは魔物の全身を観察しながら、流れる瘴気の動きを探った。
硬い殻に覆われた背ではなく――胸元の装甲の隙間。そこからわずかに漏れる魔力の乱れを感じ取る。

「アルバ!胸だ、胸の中心に隙がある!」

アルバが素早く頷き、体勢を低くした。
「任せろ!」

だが魔物も容易には懐を許さない。
巨大な前肢を振り上げ、アルバを押し潰そうと迫る。

「今だ!」
シドが詠唱を走らせると、地面から一瞬だけ光の杭が伸び、魔物の動きを縫い止めた。
硬い足が土に沈み、わずかに動きが鈍る。

「……っ!」
アルバはその刹那を逃さず、一気に駆け上がるように踏み込み、剣を閃かせた。
鋭い刃が胸の隙間を突き抜け、魔物の咆哮が森を揺るがす。

「まだだ!」
シドが魔力を送り込み、アルバの剣に光が宿る。
二人の力が重なった瞬間、刃はさらに深く食い込み、魔物の体内に溢れる瘴気を押し潰した。

次の瞬間――魔物は絶叫を上げ、巨体を揺らして崩れ落ちる。
瘴気は霧散し、重苦しい空気が一気に晴れていった。

アルバは剣を振り抜いたまま、肩で息をしながら振り返る。
「……さすがだな。お前の読みがなければ、討てなかった」

シドは軽く肩をすくめ、息を整えながら答える。
「いや、アルバの剣があったからこそだよ。」

二人の言葉に、周囲の兵士たちが歓声を上げる。
ノクターンの黒衣が揺れ、勝利の熱気がその場を包み込んだ。