魔法使い時々王子

偵察部隊が前方へ散って間もなく、森の奥から異様な咆哮が響いた。
地を揺らすような低い唸り声に、鳥たちが一斉に飛び立ち、湿地の水面が波紋を広げる。

「来るぞ!」
アルバが剣を抜き放つと同時に、木立をなぎ倒して現れたのは、異形の魔物だった。
獣のような四肢を持ちながら、その背は岩のように硬質で、口からは毒々しい瘴気が漏れている。

ルシアンが即座に指示を飛ばす。
「前衛、構え!後衛は援護の魔法準備!」

黒衣の兵士たちが一斉に布陣を整える。
その規律正しい動きにシドは一瞬見惚れるが、すぐに意識を集中させた。
「……魔力の流れが荒れているな」

シドは両手を軽く掲げ、周囲の空気を震わせる。
次の瞬間、兵士たちの足元に淡い光の陣が浮かび、力強い加護が流れ込んだ。

「っ……身体が軽い!」
「魔力が巡る……!」
兵士たちの声に、ルシアンが短く頷く。
「シドの支援を活かせ!怯むな、突撃!」

アルバが先頭で魔物に斬りかかる。鋭い剣筋が瘴気を切り裂き、硬い外殻に火花を散らした。
しかし魔物は怯まず、巨大な前肢で地面を叩き割り、衝撃波を放つ。

兵士たちが弾き飛ばされそうになった瞬間、シドの指先から結界が広がった。
「守れ!」
透明な壁が衝撃を受け止め、土煙を巻き上げながらも隊列を守り抜く。

「……これだ。やっぱり戦場は、頭を働かせる余地が多い」
シドは小さく呟き、冷静に魔力を走らせた。
仲間の動き、魔物の呼吸、瘴気の濃度――全てが彼の視界に繋がっていく。

アルバが振り返り、鋭く叫ぶ。
「シド!突破口を!」

シドの目が細められ、魔力が一点に集中した。

「……任せろ」