魔法使い時々王子

ルーサ王子の滞在は、日々の行事で彩られていた。
晩餐会では料理人を前にして「このソース、塩をもう少し控えた方がいいな」などと遠慮なく口にし、オペラ鑑賞では舞台より観客の反応を面白がっていた。馬を見学した際には、「この馬は僕の国よりずっと気難しそうだな」と無邪気に笑い、取り巻きたちは頭を抱えた。

そんな自由奔放な態度に、周囲は眉をひそめるばかりだったが、アリスはつい口元を緩めてしまう。自分にはできない、立場を気にしない素直さ。その姿に、心のどこかで安心感を覚えていた。

一方で、シドは彼らの様子を見かけても何も言わなかった。普段通りに職務をこなしながら、心の奥底に芽生えた小さなざわめきを、気付かぬふりをして押し込めていた。


この日は、イスタリア城内をロザリアが案内することになっていた。
ルーサ王子の要望で「王国の学び舎や施設を見たい」とのことだったが、実際には彼の気まぐれに振り回されるのが大半であることを、ロザリアはすでに悟っていた。

広間で一行を迎えたロザリアは、傍らに控えていた青年を示す。
「まず紹介しておきましょう。こちらはわたしの弟子、シドです。今日の案内では、魔法学舎や図書館で彼が説明を担います」

ルーサはぱっと目を輝かせ、じろじろとシドを眺めた。
「ほう、弟子! いいなぁ、弟子か。そうだ、メアリーも弟子を持つといいのに!」

突然名を出されたメアリーは、肩をすくめて笑う。
「私はルーサ様のお世話で手一杯ですからね。弟子どころか、自分の時間もありませんよ」

「それは残念だ!」とルーサは朗らかに笑う。「だが弟子がいたら、きっと君のように変わり者になるに違いない!」

ロザリアは苦笑を隠さず、軽く手を振った。
「人の弟子をからかうものじゃありません。さあ、そろそろ移動しましょう。次は図書館です」

アリスはくすっと笑い、シドは無言で一礼した。