魔法使い時々王子

曲が終わったとき、ルーサは列を抜け出し、迷いなくアリスの前に立った。

「君」

突然の呼びかけに、アリスは目を瞬く。

「君は笑っていただろう? 私のステップを見て」

「えっ……」頬が熱を帯びる。

「多くは怪訝そうな顔だったけど、君の目だけは違った。……面白いと思ったんだね」

ルーサの瞳は悪戯っぽく輝いているのに、不思議と人を射抜くような鋭さがある。

「君、退屈してなかった?」

アリスは一瞬言葉を失う。
舞踏会の喧騒が遠のき、彼の声だけが心に響いた。

ルーサの問いかけに、アリスは一瞬迷った。
だが、嘘をつく気にはなれなかった。

「……ええ、少し」

その言葉にルーサは満足げに笑みを深めた。
「やっぱり。君の目がそう言っていた」

彼はまるで秘密を分かち合うように、声を落として続ける。
「退屈な場では、退屈な顔をするのが普通だ。……でも、君は違った。君は面白がった。だから私も、気分がよくなったよ」

アリスの心がわずかに弾んだ。
 
ルーサの瞳に、アリスはしばし囚われていた。
彼の言葉は奇妙なのに、不思議と心を揺らす。

その様子を見守るシドは、胸の奥に芽生えた小さな違和感を拭えずにいた。
それが何なのか、まだ自分でもわからないままに。

舞踏会のざわめきの中で、三人の視線はすれ違い、交わらないまま時が流れていく。

――イスタリア王都に訪れた異国の王子ルーサ。
彼の存在は、まだ誰も知らない波紋を広げ始めていた。