魔法使い時々王子

王都の中央にそびえる時計台を前に、ルイが誇らしげに説明を始めた。
「この時計台は建国百年を記念して――」

「……もし針が逆に回ったら、時間は戻るのかな?」

ルーサが空を見上げながらぽつりと言う。
突拍子もない言葉に周囲が戸惑う中、アリスは思わず小さく笑った。

「ふふっ……そんなこと、考えたこともなかった」

隣でそれを聞いていたシドは一瞬、視線をアリスに向けた。
彼女の瞳がきらきらと輝いているのを見て、胸の奥が妙にざわつく。
(……何だ、これは)

自分でも理由の分からない感情に戸惑いながら、シドは無言で時計台を見上げた。

すると、丁度時計台の鐘が鳴った。

「まるで、時の鐘が僕のために歌ってるみたいだろう?」と真顔で言うルーサに、アリスは思わず「変な人」と小さくつぶやく。

シドは、ちらりと二人に目をやった。アリスの笑顔を確認した瞬間、視線をすぐにそらし、無言で歩き出す。

大聖堂の前では、ルーサが庭先に咲いていた小さな白い花を摘み、何の気なしにアリスへ差し出した。
「君にはこれが似合う」
アリスは驚きながらも受け取り、少し頬を染める。

後ろから見ていたシドは足を止め、何かを言いかけてやめた。わずかに眉を寄せたまま、遅れて歩みを進める。

庭園では、ルーサが自国の魔法学舎の逸話を語り、アリスが「本当に?すごい!」と瞳を輝かせた。
その様子を横目にしたシドは、わずかに口を引き結び、沈黙を守った。

彼自身、胸に広がるこの小さなざわめきが何なのか、まだ気づいてはいなかった。