魔法使い時々王子

大広間には豪奢なシャンデリアが灯り、王侯貴族たちのざわめきが波のように広がっていた。
長いテーブルの中央には、色とりどりの料理が並び、ワインの香りが空気を満たしている。

イスタリア王国国王の挨拶に続き、ルーサ王子が立ち上がった。
「このような盛大なおもてなしを受け、心より感謝いたします」
その声はよく通り、礼儀も整っている。場は安堵の空気に包まれた――次の瞬間。

「……ところで、このスープ。表面に浮いている油の模様が面白い。見てください、鳥の羽みたいでしょう？」

場が一瞬凍りつく。
給仕が慌てて説明しようとしたが、ルーサは満足げに頷き、スープを口にした。

アリスは思わず笑いそうになった。周囲が困惑する中、彼の無邪気な観察にどこか新鮮さを覚えたのだ。
その横顔を見つめる自分に気づき、アリスは慌てて視線を逸らした。

「……」
少し離れた席から、ロザリアの隣に控えていたシドは笑顔を浮かべるアリスを見た。

ルーサはその場の人々を凍り付かせた事など気づかず、今度は皿の縁を指でなぞりながら「この模様、誰が彫ったんだろう？」と興味津々に語っていた。