夜。王宮の庭に隣接する訓練場はすっかり静まり返り、灯火もほとんど落ちていた。
その暗がりの中で、シドはひとり魔力を操り続けていた。炎が舞い、氷が砕け、風が砂を巻き上げる。
抑え込んできた力を解き放つように――いや、胸に渦巻く迷いを、ただ魔法にぶつけるかのように。
「……まだ足りない。」
低く呟いたとき、背後に気配を感じた。振り返ると、腕を組んで壁にもたれるセラの姿があった。
「やっぱりさ。王子様の魔法って、スケールが違うね。」
軽口のように聞こえる声だったが、その目は真剣だった。
シドは答えず視線を逸らす。セラは小さく肩を竦め、少し歩み寄った。
「でも……ずっとひとりで抱えてきたんでしょ。その力も、王族ってことも。だから余計に“ここ”で必死なんだよね。」
シドは反論しなかった。沈黙のまま、ただ拳を握りしめる。
その様子に、セラはふっと息をつき、言葉を継いだ。
「いいじゃん。あたし、まだ付き合いは短いけど……シドの過去を知ってる唯一の人間なんでしょ?
だったらさ、何があっても味方でいてあげるよ。」
軽やかに言ったはずのその言葉は、不思議と重みを帯びて響いた。
シドはわずかに目を見開き、やがて静かに目を伏せる。
夜風が二人の間を通り抜け、長い沈黙が落ちた。
けれど、その沈黙はシドにとって、確かに救いだった。
その暗がりの中で、シドはひとり魔力を操り続けていた。炎が舞い、氷が砕け、風が砂を巻き上げる。
抑え込んできた力を解き放つように――いや、胸に渦巻く迷いを、ただ魔法にぶつけるかのように。
「……まだ足りない。」
低く呟いたとき、背後に気配を感じた。振り返ると、腕を組んで壁にもたれるセラの姿があった。
「やっぱりさ。王子様の魔法って、スケールが違うね。」
軽口のように聞こえる声だったが、その目は真剣だった。
シドは答えず視線を逸らす。セラは小さく肩を竦め、少し歩み寄った。
「でも……ずっとひとりで抱えてきたんでしょ。その力も、王族ってことも。だから余計に“ここ”で必死なんだよね。」
シドは反論しなかった。沈黙のまま、ただ拳を握りしめる。
その様子に、セラはふっと息をつき、言葉を継いだ。
「いいじゃん。あたし、まだ付き合いは短いけど……シドの過去を知ってる唯一の人間なんでしょ?
だったらさ、何があっても味方でいてあげるよ。」
軽やかに言ったはずのその言葉は、不思議と重みを帯びて響いた。
シドはわずかに目を見開き、やがて静かに目を伏せる。
夜風が二人の間を通り抜け、長い沈黙が落ちた。
けれど、その沈黙はシドにとって、確かに救いだった。



