庭の薬草畑にはシドひとりが残された。
日が傾きかけ、練習場からはまだ近衛隊員たちの剣戟の音が響いてくる。
だがシドの視線は、土から顔を出した小さな芽に落とされたままだった。
――アスタリトにいた頃も、こんなふうに土をいじっていた。
あの離宮の裏庭で。
剣も学問も与えられなかった自分が、唯一「生きている」と思えたのは魔法と、この手で確かめた芽吹きの力だけだった。
芽の先をそっと指先でなぞると、緑の葉がひときわ鮮やかに光を帯びた。
シドの魔力に応えるように、まるで生命が喜んでいるかのように。
「……今は、隠さずに済む」
誰に聞かせるでもなく呟いた言葉が、夕風に消えていった。
けれど同時に、心の奥で黒い影が蠢いた。
一週間前に届いた手紙――。
「戻れ」と告げる声が、芽吹く緑の輝きを薄暗く曇らせていく。
シドは深く息を吐き出し、頭を振った。
ここには居場所がある。
仲間も、仕事も、自分を必要としてくれる人々も。
それでも、アスタリトの影は消えない。
芽吹きの柔らかな緑を見つめながら、シドは胸の奥に、誰にも言えない痛みを再び押し込めた。
日が傾きかけ、練習場からはまだ近衛隊員たちの剣戟の音が響いてくる。
だがシドの視線は、土から顔を出した小さな芽に落とされたままだった。
――アスタリトにいた頃も、こんなふうに土をいじっていた。
あの離宮の裏庭で。
剣も学問も与えられなかった自分が、唯一「生きている」と思えたのは魔法と、この手で確かめた芽吹きの力だけだった。
芽の先をそっと指先でなぞると、緑の葉がひときわ鮮やかに光を帯びた。
シドの魔力に応えるように、まるで生命が喜んでいるかのように。
「……今は、隠さずに済む」
誰に聞かせるでもなく呟いた言葉が、夕風に消えていった。
けれど同時に、心の奥で黒い影が蠢いた。
一週間前に届いた手紙――。
「戻れ」と告げる声が、芽吹く緑の輝きを薄暗く曇らせていく。
シドは深く息を吐き出し、頭を振った。
ここには居場所がある。
仲間も、仕事も、自分を必要としてくれる人々も。
それでも、アスタリトの影は消えない。
芽吹きの柔らかな緑を見つめながら、シドは胸の奥に、誰にも言えない痛みを再び押し込めた。



