冬の冷たい風が海を越え、アスタリト王国の王都にも吹きつけていた。
白い石造りの城壁は雪を受け止め、青白い光を反射している。
その城の奥深く――玉座の間では、国王ジルがひとり報告を受けていた。
重厚な扉が静かに開き、遠路イスタリアへ派遣していた使者が進み出る。
緊張に背を強張らせながら、彼は国王の前に跪いた。
「陛下……お伝えいたします。イスタリアへ届けました御意向ですが……」
わずかに声を震わせ、続ける。
「シド殿は……これを固辞されました」
王座の間に重い沈黙が落ちる。
ジルはしばし瞑目し、やがてゆっくりと瞼を開いた。
「……そうか」
声は低く抑えられていたが、奥底に刺すような怒りが潜んでいた。
肘掛けを握る手にわずかに力がこもり、関節が白く浮かび上がる。
「弟でありながら、王家を背いた者。……やはり、裏切り者のままか」
その一言に使者は息を呑み、広間はさらに静まり返る。
怒号ではなく、冷えきった声だからこそ、王の苛立ちと失望は鮮烈に響いた。
ジルは深く息を吐き、顔をそむける。
「……よい。下がれ」
使者が退室した後も、広間にはなお重苦しい気配が残り続けた。
──シド。
兄の胸中に、燃えさしのような怒りが燻る。
いずれ己の選んだ道が、何を失わせるかを知る時が来るだろう。
ジルの瞳には、冷たい炎が宿っていた。
白い石造りの城壁は雪を受け止め、青白い光を反射している。
その城の奥深く――玉座の間では、国王ジルがひとり報告を受けていた。
重厚な扉が静かに開き、遠路イスタリアへ派遣していた使者が進み出る。
緊張に背を強張らせながら、彼は国王の前に跪いた。
「陛下……お伝えいたします。イスタリアへ届けました御意向ですが……」
わずかに声を震わせ、続ける。
「シド殿は……これを固辞されました」
王座の間に重い沈黙が落ちる。
ジルはしばし瞑目し、やがてゆっくりと瞼を開いた。
「……そうか」
声は低く抑えられていたが、奥底に刺すような怒りが潜んでいた。
肘掛けを握る手にわずかに力がこもり、関節が白く浮かび上がる。
「弟でありながら、王家を背いた者。……やはり、裏切り者のままか」
その一言に使者は息を呑み、広間はさらに静まり返る。
怒号ではなく、冷えきった声だからこそ、王の苛立ちと失望は鮮烈に響いた。
ジルは深く息を吐き、顔をそむける。
「……よい。下がれ」
使者が退室した後も、広間にはなお重苦しい気配が残り続けた。
──シド。
兄の胸中に、燃えさしのような怒りが燻る。
いずれ己の選んだ道が、何を失わせるかを知る時が来るだろう。
ジルの瞳には、冷たい炎が宿っていた。



