窓の外では雪が音もなく降り続けている。
「……私がアスタリトを出た理由は、単純なものではありません」
静かな声の奥に、わずかな痛みが滲む。

「――私は、記録にある限り王族で初めての魔法使いでした」
ロザリアは目を瞬く。

「それは…珍しいことなの?」

「珍しいどころか、前例は一つもない。だから…私の母は、本当に王の子を産んだのかと疑われました」

短い沈黙のあと、シドは淡々と続けた。

「母は疑いに耐えられず、心を病み、やがて亡くなりました。父である王は深く悲しみ…そして、その悲しみを私に向けたのです」

その時の視線と空気の冷たさを思い出す。

「無視され、存在ごと消されるような日々でした。王宮の離れにある古い離宮で、家族から隔てられて育ちました」

ロザリアは何も言わず、ただその言葉を受け止める。
「……だから、私はあの国を出たのです。王族の立場も、家も、すべてを捨てて」

シドの声は最後まで穏やかだったが、そこに秘められた決意と諦念は重く、雪の静けさと溶け合っていた。