ロザリアはしばらくシドを見つめ、やがて静かに問いかけた。

「……一つ、聞いてもいいかしら? なぜ、国を出たの?」

それは、この国に来てから誰にも問われなかった質問だった。
シドは短く息を吐き、少しだけ視線を落とす。

「……そうですね。この国に来てからは、一度も話していませんでした」

そして、ゆっくりと口を開いた。
「――あれは、すべてを捨てると決めた夜のことです」

シドの意識は、自然と数年前のアスタリトへと遡っていった。
王宮の高い塔の窓から見下ろした夜景、遠くで鳴る祭りの鐘の音。
あの夜こそが、自分が王族であることをやめた瞬間だった――。