魔法使い時々王子

その夜、アリスは自室でリアンに髪を梳いてもらっていた。
鏡越しに映る自分の髪を見ながら、ふと昼間のセラのことを思い出し、自然と唇が緩む。

「アリス様、どうかなさいました?」
リアンが首をかしげる。

「昼間、薬を届けに来た魔法薬剤師の子……セラのことを思い出していたの。とても明るくて、人懐っこい子だったわ」

「そうでしょうね。シドからも、少し変わっているけれど、とても愉快な子だと聞いています」

アリスは頷き、少し視線を落とす。
「この王宮に、友人と呼べる人は一人もいないの。ましてや、私に対してあんなふうに対等に話をしてくる人なんて……。でも、セラは違った。あんな風に、まるで友達のように話しかけてくれる人は初めてよ」

そう口にしてから、アリスはハッとしたようにリアンを振り返った。
「もちろん、リアンは侍女ってだけじゃないわ。私にとって大切な人よ」

リアンは微笑んで、手を止めずに答える。
「分かっています。ですが、アリス様がセラに対してそう思うのは無理もありません。私はやはりアリス様の侍女。お仕えするご主人様と友人になるわけにはいきませんから。ですが、セラはこの国の出身ではありませんし……もしかしたら、アリス様の良き友人になれるかもしれませんね」

「……この国の出身じゃないの?」
「はい。アスタリトの出身だと聞きました」

「えっ……アスタリト?!」
アリスは思わず声を上げた。

「シドはそれを知っているの?」
「ええ…?シドから聞きましたので」

リアンは不思議そうに答える。
アリスは胸の内でそっと考えた――セラは、シドがかつて王子だったことを知っているのだろうか。