ロザリアに言われるまでは、シドは休暇を取るつもりなど毛頭なかった。
だが、「クリスマスに働くなんて、そんなばかな話はないわ」と一蹴され、強制的に休暇を取ることとなった。

こうしてシドは、リアン、キース、レオと共に、レオのバーでささやかなクリスマスの祝いを過ごすことにした。
温かな灯りがともる店内では、他愛のない会話と笑い声が交わされ、心地よいひとときが流れていた。仕事の話は一切なし。
この夜だけは、それぞれが肩の力を抜き、ただの友人として語らい合う、静かな時間だった。

一方でアリスは、重い足取りでコカール城へ向かっていた。
例年であれば王宮で過ごすクリスマスだが、今年は父であるイスタリア国王の強い希望により、王族全員が揃ってコカールで過ごすこととなったのだ。
家族で過ごすことが当然とされるこの行事に、アリスも渋々ながら出席するしかなかった。

出発に先立ち、王宮では恒例となっている行事が執り行われた。
王宮の大バルコニーから、庭園まで解放された国民に向け、イスタリア国王がクリスマスの祝辞を述べたのだ。
白い息を吐きながら、国王は穏やかな声で国の繁栄と平和を願い、民たちは拍手と歓声でそれに応えた。

それは、イスタリアに冬が訪れたことを告げる、静かで、そして華やかな始まりだった。