「清水さん。アプリ開発の件、会議室で打ち合わせしてもいいか?」

午後になると、優樹が資料を手に声をかけてきた。

「はい、かしこまりました」

茉莉花も書類を持って立ち上がる。

「行ってらっしゃーい。ごゆっくりー」

ニヤリとしながら手を振る沙和にヒヤヒヤして、茉莉花は優樹のあとを追った。

会議室に入ると、いつものようにブラインドを上げる……のかと思いきや、優樹はそのまま茉莉花を促して向かい合って座った。

あれ?とブラインドに目をやっていると、優樹が取り繕うように咳払いをする。

「その……、万が一にもニヤけてしまって、誰かに見られたらと思うと……」

茉莉花はポカンとしてから、万が一にもって、と笑いを堪える。

「じゃあ、早速始めていいか?」
「はい、お願いします」
「次回、先方には今週の金曜日に伺うことになった」
「分かりました、私も同行します。あれからアプリの機能を細かく反映して、各ページごとにまとめました。トップページから順にご確認いただけますか?」

茉莉花は資料を優樹の前に並べる。

「トップページに表示するコンテンツも、ユーザーがそれぞれ選んで設定出来ますが、問題は操作が簡単かどうかですね。分かりづらければ、そこでユーザーは使うのを諦めてしまうと思います」
「そうだな。ある程度サジェストしたものを数パターン用意しておいて、まずはそれを選んでもらう。慣れてきたら、徐々にカスタマイズするのがいいかも。パターンをこちらで考えて、先方にご提案してみよう」
「はい」

二人で顔を寄せ合い、どれをトップページに持ってくるかを話し合う。

「無難に、天気とニューストピックス、メールと今日のスケジュールとかか?」
「そうですね。あとはテレビ番組表とか、星占いが好きな子もいると思います」

すると優樹が顔を上げる。

「君も占いとか好きなの?」
「いえ、私はあんまり。それより『今日はなんの日?』の方が好きですね」
「なんだそれ?」
「例えば、今日8月7日は『花の日』なんですって。だから、帰りにお花を買って帰ろうかな、なんて楽しみが増えます」

へえ、と優樹は感心する。

「……茉莉花らしいな」

小さく呟いて頬を緩めた。

「部長?」
「あ、すまん。……ブラインド下ろしておいてよかった」
「はい?」
「いや、気にするな。じゃあ次は、ヘルスケアのページだな」

優樹は必死に真顔を作って、話を進めた。