「やったね! 沙和ちゃん。スペシャルランチ、ゲット!」
「なにを呑気なこと言ってんのよ? 茉莉花」
「え? だって沙和ちゃん、その為に急いでたんでしょ?」
「違うわよ! 茉莉花の愚痴を聞かなきゃと思ってね」

は?と茉莉花はキョトンとする。

「私の愚痴って?」
「まあ、愚痴というか恨み節というか……」

とにかく!と、沙和はズイッと茉莉花に顔を寄せた。

「茉莉花、失恋の痛手を癒やさなきゃ。仕事も手につかないくらい、落ち込んでるんでしょ? 私、なんでもつき合うからさ。カラオケでもお酒でも。ね?」
「え、あの、私の失恋って、小澤課長のこと?」
「当たり前でしょ? なに言ってんの」
「そうよね……」

視線を落とすと、今度は沙和が首をひねる。

「え、どういうこと? 茉莉花、別の人のこと考えてたの?」
「あ! いや、その……」
「そうなのね! ちょっと、誰なの? 説明して!」
「さ、沙和ちゃん、落ち着いて。えっとね、誰かは言えないんだけど、その、最近親しくなった人がいて……」
「ええ!? 男の人ってことよね? いったい誰よ?」
「だから、それは言えないんだって」

食いつかんばかりの沙和に、茉莉花は身を引いて両手で制する。

「んー、まあいいわ。それで?」
「うん、あの……。その人が私に、その……、好意を持ってくれたみたいなんだけど、そのあとメッセージが来なくなっちゃって。早々にフェイドアウトかなーって」
「それで悩んでたの?」
「悩んでたというか、まあ、はい」

沙和はランチもそっちのけで、うーむ、と腕を組んで考え込む。

「その男、もしや軽い気持ちで茉莉花に声をかけたのか? 純粋な乙女心を弄ぶとは、許すまじ」
「ううん、そんな人じゃないの。誠実で優しい人。それだけは間違いないから」
「なんと! 茉莉花は既にそいつに心奪われているのか?」
「ちょっと、沙和ちゃん。武士の言葉で中身が頭に入って来ないよ」
「でもそれじゃあ、茉莉花は小澤課長のことを考えてた訳じゃないのね?」

そう言われればそうだと、茉莉花は頷く。

「そっか。なら、それはそれでヨシとしよう。今の茉莉花は、とにかく失恋の傷を癒やすことが大事だから。そのうちにその人と、新たな恋が芽生えるといいね」
「うん、そうだといいな」

小さく呟くと、沙和は驚いて仰け反った。

「やだ! 茉莉花、すっかり恋してるじゃない」
「え、そうかな?」
「そうだよ! それで、茉莉花は? 相手にちゃんと伝えたの? 自分の気持ち」
「ううん、それからメッセージも電話も来なくなったから。それになんて言えばいいのかも分からないし」
「そんなの、素直にそのまま言えばいいじゃない。あなたのことばかり考えちゃう、連絡くれないから寂しいって」
「えっ、それをどうやって言うの? だって、向こうからは連絡……」

茉莉花がするの!と沙和は声を張る。

「いい? 茉莉花。恋ってね、待ってたら向こうからホイホイ来てくれるものじゃないの。茉莉花からもちゃんと相手に気持ちを伝えなきゃ。そうやってキャッチボールしながら育んでいくの。相手を思いやりながらボールを投げて、向こうからも優しく投げ返してもらう。そのうちに少しずつスムーズに、息を合わせられるようになる。愛情のキャッチボールなの。だから茉莉花も、もらったボールはちゃんと相手に返さなきゃ」
「愛情の、キャッチボール?」
「そう。茉莉花はもらったんでしょ? その人から優しさのボールを」
「……うん、もらった。たくさんもらったの」

顔を上げてそう言うと、沙和はにっこり笑う。

「じゃあ、今度は茉莉花の番ね」
「分かった、私からちゃんと返すね。ありがとう、沙和ちゃん」
「いいえー。さてと! スペシャルランチ、食べるわよ」
「うん!」

茉莉花も満面の笑みで頷いた。