「おかえりー、茉莉花」

席に戻ると、パソコン作業をしていた沙和が顔を上げた。

「ただいま。あのね、沙和ちゃん。ちょっと話したいことがあるんだ。今日ランチ一緒してもいい?」
「いいよ。なに? 話って」
「うん、あとでね」

その時、清水!と名前を呼ばれて茉莉花は立ち上がる。

「は、はい!」

それだけで緊張のあまり、顔が熱くなった。
見なくても分かる。
この声は小澤課長だ。

「ちょっといいか?」
「はい」

茉莉花はなんとか気持ちを落ち着かせながら、小澤のデスクに向かった。

「清水、今日の午後の予定はどうなってる? 時間があれば、部長との面談を入れたいんだけど」
「あ、はい。14時からオンラインでクライアントとの打ち合わせが入ってますが、それ以外は大丈夫です」
「そうか。それなら、打ち合わせが終わったら白瀬部長に声かけてくれるか?」
「はい、かしこまりました」

小澤に返事をしてから、茉莉花は隣のデスクの優樹に向き直ってお辞儀をする。

「白瀬部長、後ほどよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく」

その落ち着いた低い声に、なぜだか安心すると思いながら顔を上げた時、デスクの端に置かれたメモ帳が目に入った。

えっ……、と茉莉花は動きを止める。

(まさか、このメモ帳って)

すると小澤が「どうかしたか?」と首をひねった。

「いえ! なんでもありません。それでは、失礼いたします」

もう一度頭を下げ、茉莉花はそそくさと自分の席へ戻った。