「素敵なお店ですね、落ち着いた雰囲気で。私、こういうお店好きです」

案内された小ぢんまりとした個室で、茉莉花は部屋を見渡す。
純和風の造りで、かすかにヒノキの良い香りがした。

「俺もここは気に入ってる。会席のコースがおすすめなんだけど、それでいいか?」
「はい、もちろんです」

するとお品書きから顔を上げて、優樹は目を細める。

「え? どうかしましたか?」
「いや、無意識なんだろうな。何かを尋ねたり頼んだりすると、君はいつも『もちろんです』と答えてくれる。それがすごくいいなと、前から思ってたんだ」

ええ?と茉莉花は、恥ずかしさにうつむく。

「意識してなかったです。そんなふうに思われてたなんて、なんだか恥ずかしくて……」
「なぜだ? 素敵な言葉を使う子だなと思ってた。そういう君の人柄に、俺はいつの間にか心惹かれていたんだろうな」

茉莉花はドキッとして、ますます顔を上げられなくなった。

好きだという告白ではなく、恋を始めようと言われて始まった二人のこの関係。

(本音を言うとまだ、部長のことを心から好きだと言える自信はないし、部長も私に対して同じ気持ちだと思ってた。でも部長はずっと前から、ちゃんと私を見てくれていたんだ)

――いつの間にか心惹かれていた――

その言葉が、今の茉莉花にはとても嬉しかった。