【お疲れ様。今夜、会えるかな?】

昼休みに沙和とランチを食べてからおしゃべりしていると、茉莉花のスマートフォンに優樹からメッセージが届いた。
ちょうど沙和も彼からメッセージが来たらしく、笑顔を浮かべて返事を打っている。

茉莉花もそっと入力した。

【はい、大丈夫です】
【よかった。じゃあ、また連絡する】
【分かりました。楽しみにしています】
【俺もだ】

やり取りを終えると、茉莉花は小さく微笑む。
午後の業務は手際よく終えて、定時になると荷物をまとめた。

挨拶してオフィスを出ると、優樹に【駅前のカフェにいますね。ゆっくり来てください】とメッセージを送る。

【分かった】と返信が来て、30分後に優樹が現れた。

「すまない、遅くなって」

急いで来たのか、息を弾ませている。

「いいえ、ゆっくりでよかったのに。部長さんですもの。定時ピッタリには上がりにくいですよね」
「ありがとう。別の店で夕食を一緒にどうかな」
「はい」

カップを片付けると、優樹は茉莉花の胸元に目をやった。

「桜貝のネックレス、やっぱりよく似合ってる」
「あ、ありがとうございます。えっと、今朝のことなんですけど……」

言いにくそうに茉莉花は続ける。

「その、いつまでも優くんの存在をそのままにするのはいけないですよね。すみません、部長のことを馴れ馴れしく優くんと呼んでいるみたいで……」
「いや、気にしなくていい。俺は君とのことを誰に知られても構わない。君のしたいようにすればいいから」
「ありがとうございます」

そう答えたものの、どうしたものかと茉莉花は迷っていた。

(一応つき合い始めたとはいえ、まだちゃんとした恋人同士って感じではないよね。手を繋いだだけの、中学生レベル?)

昨日マンションまで送ってもらい、別れ際もいつものように手を振って別れただけだった。

そんな段階にもかかわらず「部長とおつき合いしている」とは言いにくい。
もう少しこのまま様子を見させてもらうことにした。