「おはよう! 茉莉花。金曜日はドタキャンごめんね」

月曜日の朝。
オフィスに入って来た沙和が、茉莉花に両手を合わせる。

「おはよう、沙和ちゃん。ううん、お仕事だもん。気にしないで」

すると向かいの席の先輩が声をかけてきた。

「あれ? 茉莉花ちゃん。その可愛いネックレスどうしたの? ひょっとして、優くんから?」
「えっと、はい」

部長のデスクを気にしながらドギマギと返事をすると、近くにいた人たちが寄ってきた。

「ほんとだ、可愛いー! 茉莉花ちゃんの誕生日じゃないよね? なにかの記念日だったの?」
「いえ、そういう訳では……」
「なんでもない日にプレゼント? 優しいねえ、優くん」
「あ、はい」

話を聞かれていないかと、ちらりと優樹の様子をうかがうと、心なしか顔を赤くして固まっている。
これ以上はマズイと、茉莉花は資料を手にコピー機へ向かった。

「ん? 優樹、どうかしたのか?」

小澤の声がして、茉莉花は耳を傾ける。

「いや、なんでもない」
「けど、お前にしては顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」
「本当に何もない。気にしないでくれ」
「そうか? 何かあったらいつでも相談してくれよ」
「分かった、ありがとう」

そう言うと優樹は片手で顔を覆い、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐いていた。