海岸を離れると、ぶらぶらと観光スポットを回ることにした。
お寺や神社を巡り、オープンテラスのカフェでランチをしてから、古民家の和菓子工房で練り切り作りを体験する。

「部長、手先が器用ですね。模様が美しいです」
「そうか? 初めてやったけど、楽しいな。おっ、清水さんも上手いじゃないか」
「本当に? よかった。思ったより簡単ですね」
「ああ。うちでも作ってみようかな」
「えー! うちで? 部長の意外な趣味」
「確かに。30の男が休日にうちで練り切り作るって、なかなかだな」
「ふふっ、いいのが出来たら会社に持って来てくださいね」

そんなことを話しながら仕上げると、縁側に並んで座り、お茶と一緒に作ったばかりの練り切りを味わう。

「うん、老舗の和菓子屋で買ったみたいに美味しい」
「自分で作ったから、余計に美味しいですよね」

のんびりと庭を眺めながらお茶を飲んでいると、同じように和菓子を作り終えたカップルが少し離れたところに座った。
お互いの和菓子を交換し、ひと口食べてから、嬉しそうに顔を寄せ合って笑っている。

「いいですね、恋人同士って。彼を見つめる女の子の笑顔がキラキラしてて、微笑ましいです。可愛いな、恋する女の子って」

カップルの様子に目を細める茉莉花を、優樹はそっと見守る。
憧れと切なさを秘めた茉莉花の表情は、儚くて美しい。

じっと茉莉花の横顔を見つめてから、優樹は心の中の想いを口にした。

「……始めてみるか? 俺たちも、恋を」
「え?」

振り返って首をかしげる茉莉花に、優樹は口をつぐむ。
余計なことを言ってしまった、と後悔した時、茉莉花が小さく答えた。

「はい」

今度は優樹が、え?と聞き返す。

「始めてみたいです。部長と一緒に、恋を」

そう言うと、茉莉花は真っ赤になってうつむく。

「ああ、始めよう。一緒に」

優樹の言葉におずおずと顔を上げると、茉莉花は、はにかんだ笑みを浮かべてコクンと頷く。
その可愛らしさに、優樹は既に恋に落ちていた。