チェックアウトして外に出ると、朝の爽やかな風が吹いていた。
優樹は茉莉花に尋ねる。

「それで、どこに向かうんだ?」
「由比ヶ浜に行きたいんです。桜貝を拾えたらなと思って」
「桜貝? そう言えば由比ヶ浜は、能登の増穂ヶ浦や紀伊の和歌浦と並んで、日本小貝三大名所の1つだったな」
「そうなんですね。聞いたところによると、由比ヶ浜は年間を通して桜貝を拾えるみたいなんです。干潮の時間ではないから、見つからないかもしれないけど」
「そうか。とにかく行ってみよう」

歩いて15分ほどで到着した由比ヶ浜には、「さくら貝の歌」の石碑も建っていた。

「うーん、見つかるかな」

波打ち際を、真剣に目を凝らしながら歩く。
しばらくはそれらしいものは見当たらなかった。

「ほんとにピンク色なのかな? 磨かないとピンクにならないんじゃ……」

茉莉花がそう呟いた時、「あった! これじゃないか?」と優樹の声がした。
振り向くと、砂浜に手を滑らせた優樹が、手のひらを開いて貝殻を見せる。

「わあ、綺麗なピンク色!」
「ああ、天然の色だな。こんなに綺麗なんだ」

優樹は茉莉花の手を取って、優しく桜貝を載せた。

「可愛い、ふふっ」

可憐な笑みを浮かべる茉莉花に、優樹も微笑む。
それからは目が慣れたのか、立て続けにいくつか見つかった。

「あった!」
「俺も見つけた」

二人で見せ合っては、また探す。
合計10枚の桜貝を集めた。

茉莉花はバッグの中から空のピルケースを取り出すと、拾った桜貝を大切にそっと入れてフタを閉じた。