ピッとルームキーをかざしてからドアを開けると、優樹は茉莉花を振り返る。

「どうぞ」
「はい、失礼します。わあ、なんて素敵なの」

和のテイストながら、広々としたリビングにはシックな家具が置かれ、古き良き時代の異国情緒にも溢れていた。

「柱や梁も風情があっていいな」
「ええ。リピングの奥は和室になってるんですね。あれ? こっちに階段がある」
「ああ、メゾネットタイプだから」
「行ってみてもいいですか?」
「どうぞ」

茉莉花は浴衣姿で静々と階段を上がった。

「隠れ家みたい。あっ、部長! 天窓がありますよ」

振り返って優樹に微笑むと、早くとばかりに手招きする。
優樹もトントンと階段を上がり、茉莉花の隣で夜空を見上げた。

「星が綺麗だな」
「ええ。ベッドに横になったら、この星空を眺めながら眠れますね」

その時、ピンポンとチャイムの音がした。

「ん? スタッフかな」

優樹は階段を下りてドアを開ける。
黒のスーツ姿の、にこやかな女性スタッフが立っていた。

「失礼いたします。サービスのフルーツとシャンパンをお持ちしました」
「ありがとう」
「それから、お嬢様。もしよろしければランドリーサービスもございます」

ローテーブルにシャンパンを置くと、スタッフはあとから下りて来た茉莉花にも、にっこりと笑いかける。

「お洋服をクリーニングして、早朝までにドアノブに掛けておきますが、いかがですか?」
「そうなんですね。それならお願いします」

茉莉花は、浴衣に着替えた時にまとめていた服を、袋ごと手渡した。

「お預かりいたします。それでは、どうぞごゆっくり」

そう言うとスタッフは、丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。