「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
花火が終わると、以前訪れたオーベルジュに二人で向かった。
あの時のシェフが変わらない笑顔で迎えてくれる。
「綺麗な浴衣姿ですね。花火はいかがでしたか?」
「とっても素敵でした。水中花火も見られて、うっとりしました」
「それはよかったです。どうぞお食事もお楽しみくださいませ」
「はい、ありがとうございます」
カウンター席に並んで座り、おまかせコースの料理を味わう。
シェフは、以前とは違うメニューを考えてくれていた。
「今回は花火に合わせて和食を中心にしてみました」
「見た目も美しいですね。素材の味が生かされていて、とても美味しいです」
「ありがとうございます」
笑顔でシェフと言葉を交わしながら、綺麗な所作で箸を使う茉莉花に、優樹は知らず知らずのうちに見惚れてしまう。
「部長? どうかしましたか?」
「いや、なにも」
慌てて取り繕い、食事の手を進める。
「すみません。運転していただくので、お酒を召し上がれないですよね」
「そういう訳ではない。気にしないで」
そう言ってから、優樹はどうしたものかと思案した。
実は茉莉花に内緒で、今夜オーベルジュの部屋をひと部屋押さえてあったのだ。
(花火大会のあとは電車も混雑するし、ナンパや痴漢も心配だ。食事のあと、乾さんと清水さんに、部屋でゆっくりしてもらおうと思って押さえたんだが……)
事前に伝えれば拒否されそうで、優樹はオーベルジュのスタッフに、レストランへルームキーを届けてくれるように頼んであった。
休憩に使うなり、宿泊するなり、いいように使ってほしいと伝言を残して。
(以前、泊まってみたいと言っていた清水さんなら喜んでくれると思ったが、乾さんが来られなくなった今、一人で使ってもらうのもどうだろう? また別の日に改めるか)
かと言って、部屋をキャンセルするのも気が引ける。
ここはスイートルームが3部屋のオーベルジュなのだから。
「部長? もしかして、お疲れですか?」
またしても茉莉花が心配そうに声をかけてきて、優樹は慌てて首を振った。
「いや、大丈夫だ」
食後のデザートとコーヒーを置いたシェフが、さり気なく優樹に目配せしてルームキーが入った小さな封筒を差し出す。
優樹はそれをジャケットの内ポケットに入れた。
花火が終わると、以前訪れたオーベルジュに二人で向かった。
あの時のシェフが変わらない笑顔で迎えてくれる。
「綺麗な浴衣姿ですね。花火はいかがでしたか?」
「とっても素敵でした。水中花火も見られて、うっとりしました」
「それはよかったです。どうぞお食事もお楽しみくださいませ」
「はい、ありがとうございます」
カウンター席に並んで座り、おまかせコースの料理を味わう。
シェフは、以前とは違うメニューを考えてくれていた。
「今回は花火に合わせて和食を中心にしてみました」
「見た目も美しいですね。素材の味が生かされていて、とても美味しいです」
「ありがとうございます」
笑顔でシェフと言葉を交わしながら、綺麗な所作で箸を使う茉莉花に、優樹は知らず知らずのうちに見惚れてしまう。
「部長? どうかしましたか?」
「いや、なにも」
慌てて取り繕い、食事の手を進める。
「すみません。運転していただくので、お酒を召し上がれないですよね」
「そういう訳ではない。気にしないで」
そう言ってから、優樹はどうしたものかと思案した。
実は茉莉花に内緒で、今夜オーベルジュの部屋をひと部屋押さえてあったのだ。
(花火大会のあとは電車も混雑するし、ナンパや痴漢も心配だ。食事のあと、乾さんと清水さんに、部屋でゆっくりしてもらおうと思って押さえたんだが……)
事前に伝えれば拒否されそうで、優樹はオーベルジュのスタッフに、レストランへルームキーを届けてくれるように頼んであった。
休憩に使うなり、宿泊するなり、いいように使ってほしいと伝言を残して。
(以前、泊まってみたいと言っていた清水さんなら喜んでくれると思ったが、乾さんが来られなくなった今、一人で使ってもらうのもどうだろう? また別の日に改めるか)
かと言って、部屋をキャンセルするのも気が引ける。
ここはスイートルームが3部屋のオーベルジュなのだから。
「部長? もしかして、お疲れですか?」
またしても茉莉花が心配そうに声をかけてきて、優樹は慌てて首を振った。
「いや、大丈夫だ」
食後のデザートとコーヒーを置いたシェフが、さり気なく優樹に目配せしてルームキーが入った小さな封筒を差し出す。
優樹はそれをジャケットの内ポケットに入れた。



