「沙和ちゃん、ちょっと席外すね」
朝礼が終わるやいなや、茉莉花は隣のデスクの沙和に声をかけ、いそいそとオフィスを出る。
あちこちに目を向けながらラウンジまでの道をたどってみたが、メモ帳は見つからなかった。
(どうしてよー。どこに行ったの?)
なくなっても支障はないが、誰かに見られるのが何より困る。
(もし中を見られたら、私の物だってすぐにバレちゃうよね。しかもあんな恥ずかしい内容を……)
秘密の優くんメモ。
それは優くんとの馴れ初めやデートで訪れた場所、二人で交わした会話、はたまたプレゼントされた物まで細かく書き留めたメモだった。
友だちの紹介で知り合い、クリスマスに「君が好きだ」と告白されてつき合い始めたこと。
茉莉花の誕生日には、綺麗な夜景が見えるホテルのレストランで、大きな花束を贈られたこと。
休日にドライブがてら、優くんの運転で海へ行ったこと。
二人の様子が手に取るように分かるそのメモは、何か思いつくたびに茉莉花が書き記しているものだった。
思いつく……。
そう。
優くんは、架空の人物。
メモ帳に書かれた内容は、全て茉莉花の妄想に過ぎなかった。
朝礼が終わるやいなや、茉莉花は隣のデスクの沙和に声をかけ、いそいそとオフィスを出る。
あちこちに目を向けながらラウンジまでの道をたどってみたが、メモ帳は見つからなかった。
(どうしてよー。どこに行ったの?)
なくなっても支障はないが、誰かに見られるのが何より困る。
(もし中を見られたら、私の物だってすぐにバレちゃうよね。しかもあんな恥ずかしい内容を……)
秘密の優くんメモ。
それは優くんとの馴れ初めやデートで訪れた場所、二人で交わした会話、はたまたプレゼントされた物まで細かく書き留めたメモだった。
友だちの紹介で知り合い、クリスマスに「君が好きだ」と告白されてつき合い始めたこと。
茉莉花の誕生日には、綺麗な夜景が見えるホテルのレストランで、大きな花束を贈られたこと。
休日にドライブがてら、優くんの運転で海へ行ったこと。
二人の様子が手に取るように分かるそのメモは、何か思いつくたびに茉莉花が書き記しているものだった。
思いつく……。
そう。
優くんは、架空の人物。
メモ帳に書かれた内容は、全て茉莉花の妄想に過ぎなかった。



