「清水さん、今夜はありがとう」

パーティーがお開きになると、優樹は片付けを手伝ってくれる茉莉花に声をかけた。

「いいえ、お役に立てたならよかったです」
「もう遅いから、早く帰りなさい。乾さんは?」
「それが……、別の人と帰ることになって」

少し言いにくそうな茉莉花の様子に、優樹は「ああ」と頷く。
パーティーの後半、沙和が他の部署の男性社員と楽しそうに話している姿を見かけたからだ。
きっとその男性と二人で帰ったのだろう。

「じゃあタクシーで送るよ」
「いえ、そんな。一人で電車で帰ります」
「こんな時間に、綺麗な装いの女の子を一人で帰らせる訳にはいかない。ほら、早く行こう」

優樹は有無を言わさず、茉莉花を促して外に出た。

「そこの大通りに出れば、すぐにタクシー拾えると思う」

そう言って、肩を並べて歩き出す。
夜風が吹きつけてきて、茉莉花が小さくクシュンとくしゃみをした。
優樹はジャケットを脱ぐと、茉莉花の肩に羽織らせる。

「えっ、あの。大丈夫ですから」
「風邪を引いたらどうする。もっと自分を労りなさい」

思わずそう言ってしまったのは、風邪の心配だけではなかったからだろう。
そっと茉莉花の様子をうかがうと、少し困ったようにうつむいていた。

(余計なことをして困らせただけか)

それでも何かしてやりたかった。
たとえほんの少しでも。
心が無理でも、身体だけでも温めてやりたい。

風に吹かれてふわりと揺れる、茉莉花の髪とワンピース。
儚げで美しくて、切なくて愛おしくて。

許されるなら、抱きしめて守りたい。
自分の胸の中で、思い切り涙を流させてやりたい。
君は一人じゃないと伝えて、いつもそばにいたい。
もう二度と寂しい思いをしてほしくない。

(今すぐそう出来ればいいのに……)

だがそうすれば、小澤への恋心を知っていると分からせてしまう。

(彼女を更に傷つけてしまうかもしれない。少なくとも動揺させてしまうだろう。そんなことは出来ない)

では、どうすれば?
結局優樹は、その答えを見つけ出せなかった。