しばらくはノートパソコンのセットアップやデスク周りの整理をすることにして、優樹はスーツのジャケットを脱ぐ。

すぐ後ろのハンガーラックに掛けようとして、ふと手を止めた。

(そうだ、あのメモ帳……)

先ほど拾ってポケットにしまったままだったことを思い出し、そっと取り出してみる。

(どうしたもんかなあ)

普通に「誰かこれ落としたか?」と皆に見せて聞けばいいのだろうが、ありがちなメモ帳はおそらく何人もが思い当たるかもしれない。
「自分のかも?」と中を確認したら……。

(あの内容だ。恐らく他人に見られたくはないだろう)

では、どうやって持ち主に返す?
うーん、と腕を組んで考える。

(面談の時に、メモ帳をなくさなかったかと一人一人に聞いてみるか。でも全員と面談を終えるには1ヶ月以上かかりそうだしな)

しばらく考えた結果、優樹はそのメモ帳を自分のデスクの電話の横に置いておくことにした。

(ここなら皆の目に触れる。持ち主が見つけて、そっと持ち去ってくれるのを待とう)

優樹はなるべく目につきやすいように、メモ帳をデスクの端に置き、よしと頷いてから仕事を始めた。