「もうすぐ12時か。せっかくだからリサーチがてら、この辺りでランチ食べていくか」
打ち合わせを終えてビルを出ると、優樹は腕時計を見ながら茉莉花に尋ねる。
「そうですね、女性に人気のお店がたくさんありそうです。あ、部長は? 入りづらかったら定食屋さんの方がいいですか?」
「いや、大丈夫だ。……多分」
尻すぼみになる優樹の口調に、茉莉花はクスッと笑う。
「じゃあ、ホイップ盛り盛りのふわふわパンケーキのお店はやめておきますね」
「ああ、うん。ありがとう」
「いいえ。実は私もそういうところは苦手で」
「そうなのか?」
「はい。たいていの女の子は好きだと思いますけど、私はあまり可愛げがないので」
「そんなことないだろう。清水さんはいつもオフィススタイルできちんとしてる」
「部長、それがあまり可愛げないってことなんですよ」
「えっ、いや、そんなつもりは」
困ったように眉をハの字に下げる優樹に、茉莉花は明るく笑顔を向けた。
「お気遣いありがとうございます。地味子の自覚はあるので、アプリの開発の為にも流行を勉強しなきゃと思ってるんです」
「いや、俺は清水さんの方が好きだ」
そう言ってから、しまった、という表情を浮かべる優樹に、茉莉花はさらりと続ける。
「部長も彼女にするなら地味子派ですか? 確かに『毎回ラブリーなカフェでSNSアップしたり、一緒にプリクラ撮るのはちょっと』っていう男性も多いですよね。んー、それならいいカフェがありますよ。キャリアウーマンが休日デートに使ってそうな、ハイセンスでおしゃれなカフェ。この近くにもあったと思うんですよね。そこでランチでもいいですか?」
「ああ」
「ではご案内しますね」
前を歩く茉莉花に、優樹も黙ってついて行く。
たどり着いたのは、シーリングファンがゆっくりと回る広い空間のカフェだった。
奥はパティオになっていて、パラソルの下にテーブルが並んでいる。
「いらっしゃいませ。2名様ですか? ただ今のお時間、パティオのお席ならすぐにご案内出来ますが」
スタッフに聞かれて茉莉花は優樹を見上げた。
「部長、外でもいいですか?」
「俺は構わない。君さえよければ」
「はい、じゃあそうします」
案内されて二人でパラソルの下の席に着く。
メニューを見ながら茉莉花は優樹に提案した。
「メインのお料理の他に、サラダとアラカルトをシェアしませんか?」
「うん、いいな。俺はキーマカレーにする。このスペアリブも美味しそうだ」
「じゃあ、アラカルトにスペアリブを頼みましょうか。私は、そうだな……。ほうれん草のラビオリにします」
ドリンクと合わせてオーダーすると、グラスの水をひと口飲んでから優樹は辺りを見渡した。
「パティオのせいか、オフィス街にいるとは思えないな。いい雰囲気の店だ」
「ええ。ここはお料理も美味しいし、テーブルがゆったり配置されているので落ち着きますよね。私のお気に入りのカフェ、ナンバースリーです」
「じゃあ、ナンバーワンは?」
「ふふ、内緒です」
「どうして?」
「だって人気が出て、いつも満席になったら困っちゃうから」
「俺に話したところで何も変わらんだろう」
「分からないですよ? 部長の彼女さんが気に入ってSNSで紹介したら、あっという間に注目されちゃうかもしれません」
そう言ってふふっと笑うと、茉莉花はパティオの中央の緑の樹を見上げる。
その時、爽やかな初夏の風が吹き抜け、茉莉花の前髪がふわりと揺れた。
形の良い額とスッと通った鼻筋。
風に目を細めて頬を緩める茉莉花に、優樹は言葉もなく見とれていた。
打ち合わせを終えてビルを出ると、優樹は腕時計を見ながら茉莉花に尋ねる。
「そうですね、女性に人気のお店がたくさんありそうです。あ、部長は? 入りづらかったら定食屋さんの方がいいですか?」
「いや、大丈夫だ。……多分」
尻すぼみになる優樹の口調に、茉莉花はクスッと笑う。
「じゃあ、ホイップ盛り盛りのふわふわパンケーキのお店はやめておきますね」
「ああ、うん。ありがとう」
「いいえ。実は私もそういうところは苦手で」
「そうなのか?」
「はい。たいていの女の子は好きだと思いますけど、私はあまり可愛げがないので」
「そんなことないだろう。清水さんはいつもオフィススタイルできちんとしてる」
「部長、それがあまり可愛げないってことなんですよ」
「えっ、いや、そんなつもりは」
困ったように眉をハの字に下げる優樹に、茉莉花は明るく笑顔を向けた。
「お気遣いありがとうございます。地味子の自覚はあるので、アプリの開発の為にも流行を勉強しなきゃと思ってるんです」
「いや、俺は清水さんの方が好きだ」
そう言ってから、しまった、という表情を浮かべる優樹に、茉莉花はさらりと続ける。
「部長も彼女にするなら地味子派ですか? 確かに『毎回ラブリーなカフェでSNSアップしたり、一緒にプリクラ撮るのはちょっと』っていう男性も多いですよね。んー、それならいいカフェがありますよ。キャリアウーマンが休日デートに使ってそうな、ハイセンスでおしゃれなカフェ。この近くにもあったと思うんですよね。そこでランチでもいいですか?」
「ああ」
「ではご案内しますね」
前を歩く茉莉花に、優樹も黙ってついて行く。
たどり着いたのは、シーリングファンがゆっくりと回る広い空間のカフェだった。
奥はパティオになっていて、パラソルの下にテーブルが並んでいる。
「いらっしゃいませ。2名様ですか? ただ今のお時間、パティオのお席ならすぐにご案内出来ますが」
スタッフに聞かれて茉莉花は優樹を見上げた。
「部長、外でもいいですか?」
「俺は構わない。君さえよければ」
「はい、じゃあそうします」
案内されて二人でパラソルの下の席に着く。
メニューを見ながら茉莉花は優樹に提案した。
「メインのお料理の他に、サラダとアラカルトをシェアしませんか?」
「うん、いいな。俺はキーマカレーにする。このスペアリブも美味しそうだ」
「じゃあ、アラカルトにスペアリブを頼みましょうか。私は、そうだな……。ほうれん草のラビオリにします」
ドリンクと合わせてオーダーすると、グラスの水をひと口飲んでから優樹は辺りを見渡した。
「パティオのせいか、オフィス街にいるとは思えないな。いい雰囲気の店だ」
「ええ。ここはお料理も美味しいし、テーブルがゆったり配置されているので落ち着きますよね。私のお気に入りのカフェ、ナンバースリーです」
「じゃあ、ナンバーワンは?」
「ふふ、内緒です」
「どうして?」
「だって人気が出て、いつも満席になったら困っちゃうから」
「俺に話したところで何も変わらんだろう」
「分からないですよ? 部長の彼女さんが気に入ってSNSで紹介したら、あっという間に注目されちゃうかもしれません」
そう言ってふふっと笑うと、茉莉花はパティオの中央の緑の樹を見上げる。
その時、爽やかな初夏の風が吹き抜け、茉莉花の前髪がふわりと揺れた。
形の良い額とスッと通った鼻筋。
風に目を細めて頬を緩める茉莉花に、優樹は言葉もなく見とれていた。



