二人で恋を始めませんか?

「これ、今日のおみやげに」
 最後にギフトショップに立ち寄ると、優樹は茉莉花にセイウチのキーホルダーを差し出した。
「ありがとうございます! ふふ、恋のライバル、モモちゃんですね」
「これで架空のデートにも信憑性が出てくるだろう?」
「え? ああ、そうですね」
「それで? 妄想ではこのあとどうなる予定だったんだ?」
「えっと、夜景の見えるホテルのレストランで食事するはずでした」
「よし、じゃあ行こう」
「え、あの、部長!?」
 スタスタと歩き始めた優樹を、茉莉花は慌てて追いかける。タクシーで向かった先は、海のすぐそばのラグジュアリーなホテルだった。
「あの、部長!」
 ホテルのロビーに入ると、茉莉花は必死に優樹を呼び止める。
「まさか、本当に?」
「ああ。冗談は上手くないんだ」
「でも私の為に、こんな」
「俺もたまには美味しいものを食べたいと思ってね。男が一人で来られないようなところだから、つき合ってくれると嬉しい」
 エレベーターで最上階まで上がると、フレンチレストランに入った。
「 私こんな服装なのに」
「どこがいけないんだ? 上品で綺麗な装いだ」
「ええ? 部長、冗談は笑って言ってください」
「冗談じゃないから笑わない」
 口では敵いそうもない。茉莉花はおとなしく、案内された席に着いた。
「ワインの好みはある?」
「いえ、何も。というより、詳しくないのでお任せします」
「分かった」
 メニューを見ながらスタッフとやり取りする優樹を、茉莉花はじっと見つめる。
(信じられない。私、部長と二人きりでこんな高級なレストランに来てるなんて。どうしてこうなったんだろう?)
  ワインが注がれると、優樹は茉莉花に微笑んでグラスを掲げた。
「誕生日おめでとう」
「え? そうだ、誕生日」
「おいおい、忘れてたのか?」
「はい、すっかり」
「明日、乾さんに聞かれるぞ? デートはどうだったかって。これで受け答えはバッチリだな」
 そう言って優樹はゆったりとグラスに口をつける。
(そっか。部長はその為に架空のデートにつき合ってくれてるんだ)
 ほんの少し寂しさを覚えながらも、その優しさに嬉しくなり、茉莉花は美味しいフランス料理を楽しく味わった。
「デザートでございます」
 最後にテーブルに置かれたのは『Happy Birthday!』と描かれたデザートプレート。
「わあ、ありがとうございます」
 いつの間にスタッフに?と優樹に聞こうとして顔を上げた茉莉花は、次の瞬間驚いて目を見開いた。
「おめでとう」
 そう言って優樹が大きな白いバラの花束を差し出している。
「え、あ、あの」
 信じられないとばかりに言葉に詰まる茉莉花に、優樹はクスッと笑った。
「あれ? 架空のデートにこれはなかったのか?」
 ここにきて、なんて洒落た冗談を……と、茉莉花は頬を赤らめる。
「どうぞ」
「ありがとう、ございます」
 おずおずと手を伸ばして受け取ると、わずかに手と手が触れ合う。茉莉花は、真っ赤になっているであろう頬を押さえることも出来ずにうつむいた。