外に出ると、大きな広場を横切って桟橋に向かう。
「食育の一環で、ここで魚釣りが出来るらしい。釣った魚は調理してもらって、その場で食べられるんだ」
「へえ、いいですね。お子さんにとってはいい体験になりそうで」
「そうだな。単なる魚の展示だけでなく生態系を学べたり、色んな魅力に溢れた施設だ」
二人も早速魚釣りに挑戦した。
餌をつけて釣り糸を垂らすと、すぐに魚が食いつく。
「わ、掛かった!」
慣れない茉莉花は、ぴちぴちと水面を跳ねる魚を見て焦って釣竿を引っ張る。
「急がないで、ゆっくり引き上げるんだ」
「はい」
優樹の言葉に、茉莉花は慎重に竿を引く。
最後に優樹が網で魚をすくった。
「わあ、釣れた!」
魚を手に笑顔を浮かべる茉莉花の写真を撮ると、優樹は魚の口から釣り針を外す。
「ありがとうございます。私、怖くてちょっと外せそうになくて」
「慣れてきたらやってみるといい。何事も挑戦だ」
「そうですね、はい」
そのあとも何匹か釣り、茉莉花は恐る恐る釣り針を外してみた。
「出来た!」
「うん。これで最初から最後まで一人で釣れるな」
「はい」
釣った魚はさばいて竜田揚げにしてもらい、停泊している船の中で海を見ながら食べる。
「美味しいですね。いくらでも食べられそう」
「そうだな。さっきまで生きていた魚を自分で釣って、その場でいただくというのは貴重な体験だ」
「本当に。まさに食育ですね。この歳になっても学ぶことが多いです」
「ああ。子どもたちにはぜひこういう経験をしてほしいと思うよ」
優樹の言葉に、茉莉花は視線をそらして考え込む。
「どうかしたか?」
「いえ。部長の言葉には重みがあるので、とても大人だな、と。……って当たり前ですね。失礼しました」
取り繕うようにパクッと竜田揚げを頬張ると、今度は優樹が何かを考え始めた。
「あの、部長?」
「あ、いや。俺ってやっぱり頭でっかちだなと思って。すぐ偉そうに難しい言葉を並べ立ててしまう」
「え? どういう意味ですか?」
「未熟なのに言葉で取り繕ってしまうんだ。なんでも頭で考えすぎてしまうし、気の利いた言葉も言えない。小澤みたいに明るく場を盛り上げられれば、人とのつき合いも上手くいくんだろうな」
意外なセリフに茉莉花はしばし沈黙する。
「ごめん、気にしないでくれ」
「いえ、大丈夫です。でもなんだか、部長は人とのつき合い方が器用でない、みたいに聞こえて……」
「みたいじゃなくて、その通りだろう」
「そうなんですか?」
「は? 見ての通り、そうだろう」
「私、部長のことをそんなふうに思ったことないですよ?」
優樹は茉莉花を振り返り、まじまじと見つめた。
「まさか。だって俺、小澤みたいに他の社員と打ち解けて話したり出来ないし、みんなに敬語使われるし」
「敬語は当たり前じゃないですか。部長なんですから」
「そうだが……。話す内容も堅苦しい仕事のことばかりで、雑談が上手く出来ない」
「雑談って、身構えてから話すものじゃないですよ? 適当にその場の流れで話すから雑談なんです。出来る出来ないというものではないと思います」
「でも出来ないんだ。天気の話、ニュースの話、みたいに頭で考えてから話題を口にする癖がついている」
「そうなんですね」
うーん、と茉莉花は宙に目をやる。
「じゃあ今も私と、なに話そうか考えながら話してるんですか?」
「いや、お察しの通りそんな暇はない」
「ふふっ。じゃあ出来てますよね、雑談」
「出来てる? これ、雑談?」
「ええ、立派な雑談です」
「そうか」
真面目な顔でうつむく優樹に、茉莉花はまた少し考え込んだ。
「でも私にとったら、とても有意義な雑談です。きっと今日のことは忘れられない。ふらっと遊びに来た水族館でこんなにも素敵な時間が過ごせたこと、部長がお話ししてくださった色々な言葉。ずっと心に残っていると思います」
優樹は顔を上げて茉莉花を見つめると、小さく頷く。
「俺もだ」
そして二人で微笑み合った。
「食育の一環で、ここで魚釣りが出来るらしい。釣った魚は調理してもらって、その場で食べられるんだ」
「へえ、いいですね。お子さんにとってはいい体験になりそうで」
「そうだな。単なる魚の展示だけでなく生態系を学べたり、色んな魅力に溢れた施設だ」
二人も早速魚釣りに挑戦した。
餌をつけて釣り糸を垂らすと、すぐに魚が食いつく。
「わ、掛かった!」
慣れない茉莉花は、ぴちぴちと水面を跳ねる魚を見て焦って釣竿を引っ張る。
「急がないで、ゆっくり引き上げるんだ」
「はい」
優樹の言葉に、茉莉花は慎重に竿を引く。
最後に優樹が網で魚をすくった。
「わあ、釣れた!」
魚を手に笑顔を浮かべる茉莉花の写真を撮ると、優樹は魚の口から釣り針を外す。
「ありがとうございます。私、怖くてちょっと外せそうになくて」
「慣れてきたらやってみるといい。何事も挑戦だ」
「そうですね、はい」
そのあとも何匹か釣り、茉莉花は恐る恐る釣り針を外してみた。
「出来た!」
「うん。これで最初から最後まで一人で釣れるな」
「はい」
釣った魚はさばいて竜田揚げにしてもらい、停泊している船の中で海を見ながら食べる。
「美味しいですね。いくらでも食べられそう」
「そうだな。さっきまで生きていた魚を自分で釣って、その場でいただくというのは貴重な体験だ」
「本当に。まさに食育ですね。この歳になっても学ぶことが多いです」
「ああ。子どもたちにはぜひこういう経験をしてほしいと思うよ」
優樹の言葉に、茉莉花は視線をそらして考え込む。
「どうかしたか?」
「いえ。部長の言葉には重みがあるので、とても大人だな、と。……って当たり前ですね。失礼しました」
取り繕うようにパクッと竜田揚げを頬張ると、今度は優樹が何かを考え始めた。
「あの、部長?」
「あ、いや。俺ってやっぱり頭でっかちだなと思って。すぐ偉そうに難しい言葉を並べ立ててしまう」
「え? どういう意味ですか?」
「未熟なのに言葉で取り繕ってしまうんだ。なんでも頭で考えすぎてしまうし、気の利いた言葉も言えない。小澤みたいに明るく場を盛り上げられれば、人とのつき合いも上手くいくんだろうな」
意外なセリフに茉莉花はしばし沈黙する。
「ごめん、気にしないでくれ」
「いえ、大丈夫です。でもなんだか、部長は人とのつき合い方が器用でない、みたいに聞こえて……」
「みたいじゃなくて、その通りだろう」
「そうなんですか?」
「は? 見ての通り、そうだろう」
「私、部長のことをそんなふうに思ったことないですよ?」
優樹は茉莉花を振り返り、まじまじと見つめた。
「まさか。だって俺、小澤みたいに他の社員と打ち解けて話したり出来ないし、みんなに敬語使われるし」
「敬語は当たり前じゃないですか。部長なんですから」
「そうだが……。話す内容も堅苦しい仕事のことばかりで、雑談が上手く出来ない」
「雑談って、身構えてから話すものじゃないですよ? 適当にその場の流れで話すから雑談なんです。出来る出来ないというものではないと思います」
「でも出来ないんだ。天気の話、ニュースの話、みたいに頭で考えてから話題を口にする癖がついている」
「そうなんですね」
うーん、と茉莉花は宙に目をやる。
「じゃあ今も私と、なに話そうか考えながら話してるんですか?」
「いや、お察しの通りそんな暇はない」
「ふふっ。じゃあ出来てますよね、雑談」
「出来てる? これ、雑談?」
「ええ、立派な雑談です」
「そうか」
真面目な顔でうつむく優樹に、茉莉花はまた少し考え込んだ。
「でも私にとったら、とても有意義な雑談です。きっと今日のことは忘れられない。ふらっと遊びに来た水族館でこんなにも素敵な時間が過ごせたこと、部長がお話ししてくださった色々な言葉。ずっと心に残っていると思います」
優樹は顔を上げて茉莉花を見つめると、小さく頷く。
「俺もだ」
そして二人で微笑み合った。



