「こんにちは」

鎌倉に着き、駅から徒歩15分のカフェに入ると、茉莉花はにこやかに店内に入った。

「いらっしゃいませ……、あら! 清水さん。お待ちしてました」
「こんにちは、店長。本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。待ってて、今オーナーを呼んできますね」

髪を1つに結った黒いエプロン姿の女性店長が、カウンターの後ろに姿を消す。
優樹は店内をサッと見渡した。

木をふんだんに使ったナチュラルな雰囲気の内装で、天井も高く、自然光がたっぷりと降り注いでいる。

「へえ、なかなかいいところだな」
「はい。もっとお客様が増えてもいいはずなんですけど、今も誰もいませんね。駅前ではないし、大通りから外れた裏通りに位置しているせいか、人通りも少なくて」
「確かに。ここを目指して来ない限りは、たどり着けないかも」
「そうなんです。そこをどうにか改善したいと思っています」

そんな話をしていると、先ほどの店長が50代くらいの華やかな装いの女性を連れて戻って来た。

「まあまあ、清水さん。遠いところをありがとうございます」
「いいえ。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。あら、そちらの方は?」

視線を向けられて、優樹は名刺を差し出す。

「初めまして、いつも清水がお世話になっております。わたくしは清水と一緒にこちらを担当させていただきます、白瀬と申します」
「まあ、こんなにかっこいい方がうちを担当してくださるの? ありがたいわ。私はオーナーの垣内(かきうち)と申します。隣は店長の熊田(くまだ)です」

よろしくお願いします、と優樹は店長とも名刺を交換した。

「さあ、どうぞお座りくださいな。今、飲み物をお持ちしますね。えっと、おすすめはフレッシュトロピカルジュースだけど、白瀬さんはコーヒーの方がいいかしら?」
「いえ、よろしければそのおすすめのジュースをいただけますか?」

オーナーは優樹の言葉に嬉しそうに笑って頷いた。

美味しいジュースを飲みながら、和やかに打ち合わせは進む。
茉莉花は、何度も優樹と確認しながら作った資料を、オーナーと店長に差し出した。

「こちらが、以前お二人からうかがった改善したい点や課題をまとめたものです。それを踏まえて原因を分析し、解決策をこのようにご提案させていただきます。家具やインテリアのイメージはこのように、ホームページや広告のデザインはこちらなどいかがでしょうか?」

二人は顔を寄せ合って資料を覗き込む。

「おしゃべりついでに、ぽろっと口にしただけなのに、こんなにも丁寧にまとめてくださったのね。まあ、なんて分かりやすいの」
「本当に。いつも愚痴をこぼすしか出来なかったけど、これなら現実的に解決していけそうですね」
「ええ。早速この内容で進めていきましょう」

オーナーと店長が嬉しそうに話すのを見て、茉莉花と優樹もホッと胸をなで下ろした。