東京に戻り、離ればなれの日々が続く。
けれど茉莉花は、優樹との関係になにも不安はなかった。

毎日仕事に打ち込み、夜に電話で話をする。
次に会う約束を決め、どこに行こうかとわくわくする。
そんな日々を幸せだと感じていた。

7月の末、優樹が東京にやって来た週末。
明日はどうしようかと話していると、ふいに優樹が切り出した。

「茉莉花、鎌倉に行かないか? 神前式とオーベルジュの予約をしに」
「え? それって、結婚式のってこと? でも日取りを決めないと予約出来ないんじゃ……」
「来年の茉莉花の誕生日にしよう。万華鏡の紫陽花が咲く頃、茉莉花との『確かな絆』を感じられる日に」
「優くん……」

茉莉花は涙を浮かべて笑顔になる。

「うん! そうしたい」
「よし、決まりだ。それなら新居も決めるぞ」
「ええー? それこそ、いつから住むのか分からないのに?」
「だけど、いざ俺がこっちに戻って来てから探したのでは遅いだろう? 焦って決めたくないし」
「それもそうか。それなら、私が先に一人で住んじゃおうかな。ふふっ」
「一人にはさせない……」
「ん? なにか言った?」

いや、なにも、と優樹はかわす。

「来年の4月から住めるところを探そう。新築のマンションとか、戸建てでもいい。茉莉花の好きなところに」
「来年の4月? そんなに早く? 私、広々と優雅に一人で暮らしちゃうよ。じゃあ少しずつ家具を入れて、優くんがいつでも帰って来られるようにしておくね」
「ああ。楽しみだな」
「うん! すごく楽しみ」

可愛らしい笑顔を浮かべる茉莉花を、優樹は優しくて抱き寄せてキスをする。

(あと8ヶ月後な)

そう心の中で呟きながら。