7月7日。
茉莉花は仕事を定時で終えると、新大阪行きの新幹線に飛び乗った。
優樹に連絡はしない。
なぜならこれはサプライズのお返しだから。

(優くんは、明日の誕生日の夜に私が仕事終わりに来ると思ってる。だけどほんとは、前日に行っちゃうんだもん! 日付けが変わった瞬間に、おめでとうを言いたいから。それに今日は七夕。離れていた恋人に会える日なんだし)

わくわくドキドキしながら窓の外を見つめ、新大阪に着くと在来線に乗り換えて、すっかり通い慣れた優樹のマンションに向かう。
優樹は明日茉莉花を駅まで迎えに行く為に、今日は残業して仕事を進めておくと言っていた。
恐らく今もまだ会社にいるだろう。

マンションに着くと、合鍵で玄関を開ける。
案の定、中は真っ暗だった。

(お邪魔しまーす。どうする? 女性ものの靴があったり、ピアスが落ちてたりしたら)

漫画でよくあるシチュエーションが脳裏をかすめるが、優樹に限ってそんなことあるはずがないという妙な確信もあった。

だが、リビングに足を踏み入れて照明のスイッチを入れようとした時、ふわっと良い香りが鼻をかすめて茉莉花は手を止める。

(え? これって……。まさか! 女性の香水?)

途端に不安に駆られた。

(嘘でしょ? そんなはずない。もしそうだとしても、きっと何か理由があるはず。ほら、会社の女の子が人には言えない相談があって、とか、お隣さんの女性が回覧板を持って来たから部屋に上げたとか。いやいや、どんな状況よ? それこそ、よくないシチュエーションじゃない)

さっきまでのウキウキした明るい気持ちは一気にしぼみ、不安でたまらなくなる。

(優くん、魔が差したの? ううん、優くんに限ってそんなことあるはずない。そうよ、何があっても私は優くんを信じる)

グッと拳を握りしめると、茉莉花は意を決して照明のスイッチに手を伸ばす。

(たとえ何が見えたとしても、絶対に優くんを信じてみせる)

そしてパチッとスイッチを入れた。